ソードアート・オンライン 15

内容(「BOOK」データベースより)

「キリト、教えて…。私は…どうすればいいの?」最高司祭アドミニストレータを倒した代償、それはユージオの死、そしてキリトの精神喪失だった。激闘から半年後。アリスは、意志の無い虚ろな表情で車椅子に乗るキリトと“ルーリッドの村”に身を寄せていた。整合騎士としての役目“人界の守護”をベルクーリに託したアリスは、心を失ってしまったキリトと静かに暮らすことを選んだのだ。そして、“アンダーワールド”には、賢者カーディナルの預言した“最終負荷実験”が刻一刻と近づきつつあった…。“ダークテリトリー”からの邪悪な息吹が“人界”に流れ込み始める。ついに、恐るべき闇の軍勢が動き出そうとしていた。

 今回はキリトが全く何もできない状況となってしまっているから、アリスが主人公って感じの巻だな。
 そしてこれまではど真ん中に人界があって、その周りをダークテリトリーに囲まれているお盆みたいに円形となっている世界だと想像していたけど、冒頭のカラーページに載っていた<アンダーワールド>全図を見ると、人界は真ん中でなく、世界も丸でなく角が丸い三角の形をしているというのは想像と違ったのでちょっと驚いた。
 アリスが身分を隠しているからなのだが、キリト・アリスは人類を救った勇者であるのに、塔にいる間も、生まれた村に戻っても愚かなもの、何も知らないものに糾弾・排斥されるというのは、最近「神話の力」を読んだせいでそんなことを思うのかもしれないが、アリスは「英雄」だと思い、そうしたシーンを神話的な一場面とも感じる。まあ、そう思っていても、アリスとキリトに侮蔑的な視点を送っているのにはムカッ腹が立つけど。
 ただ、そうやってむかついていた分だけ、ダークテリトリー側からの侵攻が起こった際に、アリスが整合騎士であると身分を明かしたときのリアクションと態度の変わりようには爽快さを覚えた。水戸黄門ってちゃんと一話丸まる見たことないけど、この印籠が目に入らぬかっていう時に見て、こうした爽快感を覚えるんだろうな、そしてそれが面白味なんだろうなと理解できた。
 ゴブリンたちにも人間の魂を搭載していることに、完成した新たな生命である「アリス」とSTL技術を強奪するために突入してきたアメリカのチームの、ヴァサゴが驚いているのを見て、改めてそれをグロテスクなことだという思いが生まれてきた。……無論、その世界で生きている「人」たちにそんな同情をするのはぶしつけだし、かえって失礼だけれども、少なくともそんなことを考え実際に実装した人間に対しては糾弾したいという思いがわく。
 オーシャンタートルに進入してきた、急襲チームのリーダーであるガブリエル・ミラー、そしてそのメンバーのヴァサゴは、菊岡・比嘉らオーシャンタートル側がプロテクトし忘れていたダークテリトリー側のスーパー・アカウントで、皇帝とその近衛騎士となりアンダーワールドへダークテリトリー側から進入してアリスを手に入れることを試みる。
 そうしたダークテリトリー側の話は面白い。ガブリエル(アカウントは「皇帝」ベクタ)が、アリス確保だけを目的にしているということもあって味方の事情も損害も頓着せずに戦争を進めているから、近年こういった純粋な悪役の統率者って見ないから、なんだか新鮮だ。それと彼のイラストも容姿端麗で格好いいけど恐ろしさも感じられるのは素晴らしいし、また彼がいかにも皇帝然とした台詞をいい、そうした振る舞いをして、それがさまになっていて、弱さを全く垣間見せないところとかガブリエル本人も暗黒騎士団長シャスターの思い、殺意の心意がまるで通じないという、悪の首領にふさわしいアカウントを超えた属人的なチート的能力(?)を持っているところはラスボスに相応しくていいね。
 そんなガブリエルはアリスでなくとも戦争用AIとしては優秀で完成されているという所感を持っているのを見ると、より完璧な、理想的な人間の魂を完成品として戦闘に使おうという計画が恐ろしく思える。
 さて、次回は人界対ダークテリトリーとの決戦が始まるということで楽しみだ。そしてキリトはいつ復活するのか。