2015年に読んだ本 ベスト20

 2015年に読んだ本の数は188冊。
 コメントは基本的には読書メーターで書いたものをちょっといじったもの。

小説 5
「火星の人」

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)

 分冊になる前のほうで読了。
 不運が重なって火星に取り残された宇宙飛行士ワトニーは火星に次の宇宙船が来るまで生き延びるため奮闘する。主人公が火星に残された機材や備品を利用し、さまざまな知識を生かして、創意工夫やチャレンジしているのを見るのは面白いし、わくわくする。

「その女アレックス」

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

 三部構成の各部それぞれで予想外の展開・驚きどころがあるので最初から最後までずっと面白くていいね。アレックスについて徐々に明らかになっていくことで、何度か大きく見方を変えられるのは面白かった。

「アブサロム・アブサロム! 上・下」

アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)

アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)

 物語の一番の山場である父サトペンに真実を知らされたヘンリーとボンのシーンは、本当に悲しくも美しい。ただ、岩波文庫版は上巻解説にネタバレあるのでそれを読むのは後にしたほうがいい。

「犯罪」

犯罪 (創元推理文庫)

犯罪 (創元推理文庫)

 各短編は大体20〜30ページほどの短さだが、どの短編も味わい深くて面白い。私は短編苦手なのだけど面白かったし、今後著者の小説を追ってこうと思わせられるくらいよかった。

「犬の力 上・下」

 殺伐としたドライな世界観がいいな。ラウルの最期のシーンが特に悲劇的な美しさもあり、印象的。



ライトノベル 1
本好きの下剋上

 書籍とwebでの連載で1年間楽しませてもらいました。日常的な挿話やマインがもたらす新しいものに喜んだり、関心深げにしている人々を見るのが楽しい。



自伝・伝記 2
北一輝

北一輝 (ちくま学芸文庫)

北一輝 (ちくま学芸文庫)

 北一輝は論理的な国家社会主義者で、本質は陰謀家。そして『天皇を玉として扱った維新革命家の後裔』(P329)。『北の思想の骨格を極表面的に要約すれば、天皇制打破と大陸膨張主義の特異な結合、すなわち天皇なき革命的大帝国主義』(P66)。北の対外膨張と国内改造は不可分なもので、対外膨張のため国内改造を述べる北はファシストに似てくる。一方で国内改造を前提とした対外膨張を述べる『彼は、ポーランド地主的圧政下にあるよりも、社会主義ソ連に帰属したほうが幸せだと考えた、三○年代スターリニストに大変似てくる』(P317)。
 明治や昭和の社会主義者などは明治維新の意味を卑小化したが、そうした主張に国民の同意は集まりづらかった。『北は逆に、維新革命の意味を極限的に膨張させ、それを未完のなお継続しつつある革命ととらえることによって、明治国民国家に吸収されつつある国民のナショナルな幻想を、そのまま第二革命のエネルギーとして動員する戦略をとった。この戦略の現実性の秘密は、それが支配権力に対する反逆を、明治国家の法的源泉である維新革命の立場から正当化しうる点にある。この正当化の逆接こそ、天才児北の魔術の一切であった。』(P189)

「城下の人 石光真清の手記 1」

城下の人―石光真清の手記 1 (中公文庫)

城下の人―石光真清の手記 1 (中公文庫)

 明治元年熊本藩の武士の家に生まれた石光真清の自伝的な本。
 子供時代に見聞した神風連の乱西南戦争についての話など面白いエピソードが豊富。
 続きをまだ読んでいないから、その続きを2016年に読める幸せ。



ノンフィクション 4
「どうして僕はこんなところに」

どうして僕はこんなところに (角川文庫)

どうして僕はこんなところに (角川文庫)

 ノンフィクションやエッセイ的な短編を多く収録。この著者の描かれている人それぞれの個性が見える鮮やかな人物描写は好き。そして飾り気ない硬質な文章で書かれる人物描写や一つ一つのシーンには静謐な美しさがあって素敵。

「漂流するトルコ 続「トルコのもう一つの顔」」

漂流するトルコ―続「トルコのもう一つの顔」

漂流するトルコ―続「トルコのもう一つの顔」

 前作「トルコのもう一つの顔」でトルコ国内の少数民族の言語を調査していたことによってトルコに再入国できなくなっていたが、本書では94年に再びトルコに入れるようになり、03年に再び再入国禁止処分とされるまでが書かれてる。著者は正確な事情を知る人がろくにいないトルコ国内の諸言語について詳しく知っているため、トルコ政府から警戒されて、フランスの情報機関から接触を受ける。そうしたノンフィクションなのに複数の国の機関が接触してくるというスケールの大きさはそれだけで楽しい。

「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年」

 子供の取り違えの事実が判明してからの25年(文庫新章を含めて)という長い間取材をして、その間の双方の家族のさまざまな葛藤や家族の物語を書いたノンフィクション。

「私のように黒い夜」

私のように黒い夜

私のように黒い夜

 1959年に白人の著者は白斑病の治療薬を飲み、紫外線に全身を曝すことで肌を黒くし、黒人に扮して人種差別が激しかったアメリカ南部で一月半過ごしたことを書いたノンフィクション。取材終盤、肌の色が元に戻ってきた頃に著者が顔料を塗ったり塗らなかったりすることで黒人の顔と白人の顔を使い分けて同じ街を歩くと、その街は全く違う姿を見せたことなどの興味深いエピソードが書かれている。



歴史 2
古代ギリシャのリアル」

古代ギリシャのリアル

古代ギリシャのリアル

 最高神ゼウスに浮気神話が多いのは、各都市が自分たちの祖先をゼウスだと主張していたからなど面白い話が多い。

「クアトロ・ラガッツィ 上・下」

 日本のイエズス会の内部が上から教えを与える意識で西洋文化・習慣に同化させようとした十年間日本布教長を務めたカブラルやコエリョらのグループと、中国や日本を異教だが文明国だとして現地の文化にあわせた布教方針に転換させた巡察師ヴァリニャーノやオルガンティーノのイタリア人中心の人文主義的なグループにわかれていたとは知らなかった。



宗教・思想・哲学 2
「仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か」

仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か

仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か

 悟って世俗の価値観に囚われなくなった解脱者の行為は、なにものにもとらわれない本質的には「遊び」のようなもの。慈悲の実践も遊びだが、それは真剣でないことを意味しない。なぜなら悟った者にとってその遊び以外に何か大切なものがないからだ。
 そして「遊び」であるため、慈悲行の実践をいかに・どの程度行うかは解脱者個々人による。その境地を他者に積極的に開示しない者いれば、ゴータマ・ブッダのように教えれば悟ることのできる衆生のために教えようとする者も、『十地経』(大乗仏教)の菩薩のように一切衆上を一人残らず救おうとする者もいる。
 仏教の多様性は解脱者のそうした対応の違いから生じる。

「禅思想史講義」

禅思想史講義

禅思想史講義

 圜悟は唐代禅的なありのままを否定し、ありのまま(0度)から大悟(180度)することで初めて本来ありのままで円成していたとわかる(360度)と主張。圜悟の弟子の大慧は人には仏性がある(本覚)が、現実の自己は迷っている(不覚)ため、看話禅で大悟(始覚)して、本来の覚り(本覚)に戻ると主張。この「本覚⇒不覚⇒始覚⇒本覚」の構造は、圜悟の『円環の論理をつぐものであり、遠くは最初期のいわゆる「北宗」禅に――方式を禅定から看話に発展させつつ――回帰するもので』(P163)、この円環の論理は中国禅の論理の一つの完成形。『十牛図』の構成は、この円環構造を視覚化したもの。



その他 4
「21世紀の自由論 「優しいリアリズム」の時代へ」

 情報革命は世界をフラット化して富を分散させていき、『伝統的な国家権力構造も解体されていく。大国が世界を支配するような時代は終わり、さまざまな国やグローバル企業、非政府組織(NGO)のような団体まで含めて、ばらばらに権力が分散される時代がやってくる』(P162)。現在はその移行期。『移行期における目標は、私たちの生存そのもの』(P190)。そんな中で求められるのは国民の生存のために現実的な対処をできる現実主義。

「レトリック感覚」

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

 レトリックについてほとんど知識がないので、具体的にどういう表現をどういう呼び方で呼ぶのかとか、各レトリックの定義や効果みたいなものを知ることはかなり面白い。

「戦争における「人殺し」の心理学」

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

 第二次大戦中の戦闘で接近戦をしたアメリカの歩兵のうち実際に敵に発砲したのは15〜20%だった。発砲された銃弾の数量を考えると他の軍も大体同じくらいの割合。アメリカ軍はその発砲率の低さを改善する訓練方法の開発したことで、朝鮮戦争時には発砲率が55パーセントに上昇し、ベトナム戦争では90〜95パーセントにまでなった。そのように『第二次大戦以降に取り入れられた革命的な矯正法や訓練法の有効性』(P91)は極めて大きい。

「縄文生活の再現」

縄文生活の再現 (ちくま文庫)

縄文生活の再現 (ちくま文庫)

 実際に縄文の道具を作ったり、使ったりして、縄文生活のさまざまなことを体験してみて実感したことが書かれていて面白い。