2017年に読んだ本 ベスト10

 2017年に読んで特に面白かった本のまとめ。例年は20冊選んでいるのですが、2017年は読んだ本が少なかったので10冊。
 コメントは読書メーターで書いたものをちょっといじったりしたもの。

○小説 3
「香水」

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)

 匂いによる感情の誘導など魅力的かつ魔術的な匂いの力が描かれていて面白い。主人公グルヌイユは生まれつき自分の匂いを持たないが極めて優れた嗅覚と匂いを記憶する能力を持ち、また匂いを頭の中で組み合わせて現実には存在しない匂いを生み出せる。地中の物は活気を失わせるという理論を信じるスピナス侯爵の前で、グルヌイユはめまいを起こした風を装う。そして侯爵がつけているスミレの香水はスミレの根を材料としていているせいだと言って、それを聞いたスピナス侯爵が自分の理論はやはり正しかったと喜んでいるシーンが好き。
「わたしは英国王に給仕した」
わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

 ホテルの給仕だったヤンが、自身のことやホテルの客や同僚の話などを語る。『ありえそうにない小話や信じられないエピソードを連結して滔々と語っていく』(P251、解説)そうしたほどよく現実離れしたエピソードが多数記された物語は好みなので面白かった。ホテル・チホタの同僚ズデニェクの挿話はどれも好き。『ズデニェクはどうやって数千コルナを使うか十日のあいだずっと考え続けている』(P161)。夜、村の居酒屋に音楽家を呼び、村の人々に酒を奢って金を使い果たす。そして音楽が続く中で車でホテルに帰るというエピソードが好き。
「いまさら翼といわれても」
いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても

 古典部シリーズの短編集。明るい変化が書かれた「わたしたちの伝説の一冊」や「長い休日」が特に好き。「鏡には映らない」伊原が中学の卒業制作での折木奉太郎の『手抜き』の真意を探る。伊原が折木に対してきつい態度だった理由が明かされる。「長い休日」奉太郎が例の信条を持つにきっかけとなった小学生時代の出来事が語られる。あることに気づいてショックを受けて、現在の主義のようになるといった奉太郎に対しての姉の優しい言葉がいいね。そして奉太郎も千反田との出会いもあって、変わっていっていることがわかる。

○ノンフィクション 4
「バッタを倒しにアフリカへ」

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 バッタ研究についての話も、マイナーな研究分野で今後も研究を続けられる就職先を探す難しさが書かれた話も、モーリタニアでの生活の話もどれも面白い。
 著者はモーリタニアのバッタ研究所に滞在していた頃の色々な面白いエピソードが書かれている。とても楽しんでフィールドワークをしている様子が書かれていていいね。バッタが予想外に急にいなくなったため、ゴミムシダマシの研究をする。そこでゴミムシダマシを満腹にさせることで殺さずに雌雄の判定ができることを発見。その研究についてババ所長に話したら『バッタがいなくてさぞかしコータローが困っていると思っていたら、あっという間に論文のネタを仕上げたな。』(N1794)と笑いながら褒めてくれたというエピソードも好き。
ネアンデルタール人は私たちと交配した」
ネアンデルタール人は私たちと交配した (文春e-book)

ネアンデルタール人は私たちと交配した (文春e-book)

 ネアンデルタール人のDNAを復元した学者の、DNA解読をめぐる自伝的な本。
 DNAの年月による損傷と人のDNAが混入してしまうという問題を乗り越えてネアンデルタール人やデニソワ人のDNAを解読して、現生人類がネアンデルタール人やデニソワ人のDNAを継いでいることを明らかにした。
「謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア 現在ソマリアは大きく分けて南部ソマリアプントランドソマリランドに分かれている。南部ソマリアにあるソマリア共和国の首都モガディショは国際社会からの援助などもあり栄えてはいるが、戦乱が続いている。プントランドは氏族の連合体で海賊で世界を騒がせた。ソマリランドは高度な治安を維持し、氏族が大きな意味を持つソマリ人の社会に合った独自の見事な制度を作り運用している。他の地域では護衛の兵士が必要だったが、ソマリランドの首都ハルゲイサは『夜八時過ぎでも、私たち外国人が普通に街を歩くことができる。』(P50)
ある奴隷少女に起こった出来事
ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

ある奴隷少女に起こった出来事 (新潮文庫)

 19世紀前半のアメリカ南部に奴隷として生まれ、長い苦しみの日々の末に北部へ逃れて自由となった女性の自伝。奴隷制度がもたらす歪みと悲劇が克明に描かれる。奴隷所有者が奴隷に子供を産ませるというのは珍しいことではなかった。そのため『奴隷制は、黒人だけでなく、白人にとっても災いなのだ。それは白人の父親を残酷で好色にし、その息子を乱暴でみだらにし、それは娘を汚染し、妻を惨めにする。』(P84)奴隷制は奴隷身分の人々だけでなく、その支配者たちすら歪ませる。

○歴史 2
「「月給100円サラリーマン」の時代: 戦前日本の〈普通〉の生活」

 当時の物価や生活をぐっと身近にわかりやすくしてくれる。
「ハンザ「同盟」の歴史: 中世ヨーロッパの都市と商業」 商業で結びついた都市連合で、中世に大きな力を持っていたハンザは以前から気になっていたので、そのハンザについて色々と知ることができて面白かった。
 ハンザは共通の政治目的によってではなく、経済的動機から成立した都市連合。ハンザは14世紀後半に最盛期を迎えたが、15世紀には近世的中央集権国家を目指す努力が開始されたことで衰退していく。『経済的利益共通意識のみでむすばれたハンザは、周辺に中央集権国家が存在していなかった中世においてのみ存続しうる体制であった。』(N3598)しかし『ハンザは衰えてもハンブルクダンツィヒ等はかえって興隆期を迎えているのであり、滅亡に向かったのは都市でも貿易でもなく、都市連合勢力としてのハンザそのもの』(N3709)。

○その他 1
「アイデア大全」

アイデア大全

アイデア大全

 さまざまな発想法とそのやり方が簡潔に紹介されている。そのように一度に色々な発想法を知ることができるのはありがたい。各発想法でのアイデアを出した例やレビューでのそれぞれの発想法に関する話を見るのも面白い。色々な試してみたい発想法や困ったときには使えるかもしれないと思う発想法を知ることができて良かった。