辺境生物探訪記 生命の本質を求めて

辺境生物探訪記?生命の本質を求めて? (光文社新書)

辺境生物探訪記?生命の本質を求めて? (光文社新書)

 kindleで読了。
 微生物(極限環境生物)を研究する生物学者の長沼毅氏と小説家でサイエンスライターの藤崎慎吾氏の対談本。連載されていた対談をまとめたもので、1幕ごとに対談している場所が変わって、その場所に関連した話題などが話される。またゲストを呼んで鼎談となっている幕もある。
 微生物には酵母やカビ、アメーバなどの小さな真核生物、細菌(バクテリア)、アーキアがある。『長沼 真核生物には微生物であるカビや酵母はもちろん、植物も動物も全部入ってくる。人間もゾウもキリンも虫けらも、全部そこに入る。酵母も人間もその縁の近さを考えたら一つのグループ、ワン・ファミリーよ。それに比べて、バクテリアとかアーキアは、もう全然違った生き物なんだ。バクテリアアーキアも1㎛(マイクロメートル。0.001mm)くらいで、見た目はまったく同じ。だけど、中身は全然違う。(中略)遺伝子もゲノムも違う。その違いから見たら、人間と酵母なんて兄弟に等しい。それくらい違う。』(N212)
 2幕では、色々な深海調査の話やそこの生物の話がなされる。『長沼 (中略)ズワイガニは海底に餌を持っていくと、どこからともなく群がってくるのね、モワモワーッと。でも、何で群がってくるのかがわからない。(中略)匂いというのは化学物質でしょ。それが水の中に出て行くんだけど、潮の流れがあるから上流とか下流がある。下流側なら匂いを感じてくるのはわかるけど、全方位からくるわけよ。となると拡散かなと……。でも、分子の拡散なんて遅いから、そんなに速く来るわけがないの。
 藤崎 数分で集まるのですか。
 長沼 うん。おかしいなということは昔から言われていて、当時、JAMSTECの橋本惇さんという研究者(現在は長崎大学水産学部教授)が、これはカニがものを食べるときの「バリバリバリ」という音で寄ってくるのではないかと考えた。』(N1235)それでカニがものを食べるときの音を録音して、それを周波数分析して合成音をつくって、その音を流してみたが、合成音にカニは集まらなかった。カニのような誰もが知っている生物にそんな謎めいたところがあるというのは面白い。
 5幕は瑞浪超深地層研究所の研究坑道での対談。
 地下微生物の世界。『長沼 地球全部の微生物が、地下生物を含めて10の30乗。そのうち今まで調べられてきた伝統的な生物圏、つまり陸上とか、海洋とか、畑の上とか、そのあたりにいるのは全部ひっくるめても10の28乗から29乗なの。つまり100分の1から10分の1なのよ。ここに微生物が100匹いたら、残りの99引きとか90匹は地下微生物ということ。
 藤崎 ものすごい勢力ですね。
 長沼 すごい数なんだけど、鈍い(笑)。鈍いから一見、何もしてないように見える。ただし長い時間を掛けてみた場合、非常に数が多いので、ゆっくりしたペースであっても、それなりの働きをしているはずだよね。で、どういう働きがあるかっていうと……何があるんだろうねぇ(笑)。
 藤崎 先生!
 長沼 実際のところ、我々は遅いバイオロジーを知らないので、良く分からない。まあ、一つには地下でメタンをつくっているだろうと。(中略)ウラン鉱山がどうしてできるのかは、ずっと長い間、地質学会で謎なんだ。ただ、われわれのここでの経験によると、どうやら微生物が一枚かんでいるらしい。
 藤崎 本当ですか。
 長沼 ウランとか、そのほかいろいろな鉱物資源が鉱床をつくる、貯まってくる、集まってくるという現象が、どうも微生物によってなされる可能性が高いんだ。(中略)もちろん、微生物がいなくてもおき得る反応なのね。微生物は奇跡をおこすわけではない。けれども微生物は、ひじょうにゆっくりした鈍いペースの化学反応を加速することができる。』(N3000)地下微生物の数の多さや、地下微生物が鉱床を作っているようだという話は面白い。