異星人の郷 上

 

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

 

 

 ネタバレあり。

 中世と現代の2つのパートがある。メインの中世パートでは中世ドイツの農村ホッホヴァルトの司祭で知識人でもあるディートリヒ視点で、宇宙船の故障で故郷へと帰れなくなった科学力に優れるが宗教のない異星人であるクランク人とのファーストコンタクトや交流が書かれている。現代パートでは、その交流の場となった村ホッホヴァルト(アイフェルハイム)は400年以上もあったのに突然に消失して、その後長くその地に人が住むことがなかったという謎を解こうとする現代の統計歴史学者トムとそのパートナーである宇宙物理学者シャロンの視点で進む。

 中世パートでの当時の習俗とか日常などの描写がいいね。そして中世パートの語り手である司祭ディートリヒ。

 異星人であるクランク人たちは予期せぬ事態で宇宙船が故障してホッホヴァルト付近の森に漂着することになった。村側では森に密猟者が潜んでいると思って領主の兵士であるマックスや司祭ディートリヒは森へと行き、森でヒルデとも合流。その森で一行は悪魔を連想させる姿の異星人という想定外の存在と出会う。ヒルデは怖れつつも怪我をしている異星人を抱いて、巡礼を歓迎する言葉を述べた。ディートリヒはその行為や異星人の中に子どもがいることを見て、『悪魔ではありませんよ、軍曹(中略)あれは人だと思います』(P114)とマックスに言う。そのように異星人を「人」だと判断して、怪我を治すための軟膏をとりに行かせると同時にパニックにならないように異星人の存在を村の人々に内緒とする。

 この時点では互いに言葉の伝わらない状態の中でそのように平和裏な接触が行われて、そこから友好的な交流をしていくことになる。後日ディートリヒはクランク人は翻訳機を通じて会話ができるようになる。そしてコミュニケーションを通じて全く違った種族・文化の相手を徐々に互いを理解していく。クランク人から説明される現代科学的な知識について中世教養人であるディートリヒが当時の学術や宗教的な考えからこういうことかなと理解したりできなかったり、逆に宗教を持たないクランク人がディートリヒからキリスト教の話を聞いても中々できなかったりするといったことが書かれている。

 村の領主マンフレートはクレンク人を家臣にして火薬を作らせて、それを使って旅人や商人を脅かし交易を阻害しているフォン・ファルケンシュタインを取り除こうと考えている。そうした思惑から様子見をしていて、冬にクランク人が物資不足に陥ったのを契機として、クランク人はマンフレートの臣下となる。村人たちは異形のクレンク人を恐ろしげに見やる。しかし教会で礼儀にかなった行動をとったことやヨアヒムの演説の効果もあって、即座に排斥したり、衝突したりといった面倒な事態にはならずにすんだ。そうして交流を深めるうちに、クレンク人の中からキリスト教の洗礼を受けることにした者も出てくる。

 何度か触れられているディートリヒの暗い過去や冬にもめごとを起こして村を出た一人の若者などが不穏な伏線があるので、下巻は交流が主だった上巻とは違った展開になりそうだからそれも楽しみ。

 現代パートでの統計歴史学者トムの話は後世に残った史料の断片を見ることで、中世パートではまだ描写されていない出来事の一端を見せて、いったい中世パートのその後はどうなってそうなったか、物語の結末はどうなるのかという関心を強めさせる。そして宇宙物理学者シャロンの発見は、パートナーであるトムとの話とも繋がりそうだが、それらがどのように繋がることになるのかも楽しみ。