労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱

 

 

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 EU離脱投票で労働者階級の人々が離脱票を投じた理由としては、政権を握る保守党の緊縮財政で公共サービスが悪化していたことが大きいことなどが書かれる。

 ○ブレグジットと緊縮財政

 ブレグジットEUからのイギリス脱退)の背景にある保守党キャメロン政権の緊縮財政に対する不満。その緊縮財政での『削減のスピードはすさまじく、国立病院には閉鎖される病棟が出現し、公立学校の教員は目に見えて減り、福祉を切られて路頭に出るホームレスは増え、(中略)、地べたレベルでも国の風景が一変した。』(N451

 そんな『戦後最大の歳出削減で、(中略)公共サービスを縮小し続けていたキャメロンとオズボーン元財相の政治は、労働者階級からは切実に忌み嫌われていた。その2人が残留派のリーダーとして前面に立ってキャンペーンを繰り広げていたのだから、「残留派はネオリベのエリート」といわれてもしかたのない一面はあった。』(N288)大規模な緊縮財政で不人気だった人物が残留派の旗振り役だったということでの悪印象があった。そのように現政権への緊縮財政に対する意思表示としての投票という側面があった。大きな出来事ではあるけど根本にあるのは何ら特殊なことではなくて、それまでの経済政策が駄目だった時の政権が見限られたという話だったのか。

 20176月の総選挙。総選挙発表時点では労働党は保守党に支持率で大きな差をつけられて負けていた。しかし労働党のコービン陣営が「反緊縮マニフェスト」と呼ばれたマニフェストの発表後に保守党との差は縮まり、選挙後には労働党の支持率が保守党を抜いた。『これなども、本当にEU離脱投票の結果が「英国の右傾化」を意味していたとするならば、どうしてそのたった1年後に、英国の人々が「強硬左派」とまで呼ばれているコービン率いる労働党に魅力を感じているのか、説明がつきにくい。』(N387

 ○白人労働者階級

 ジャスティン・ジェストは『近年は白人労働者階級に関心を持ち、彼らを「ニュー・マイノリティ」と呼んで調査を続けてきた。』(N1176)白人労働者階級をマイノリティと表現することに抵抗を覚える人々もいるが『このように、「マイノリティなのか、そうでないのか」という問題じたいが激しい論争の的になり、マイノリティとしての存在認定が下りていないという点じたいが、白人労働者階級がそれ以外のクラスタとは異なる「新たな」マイノリティであることを示しているだろう。』(N1187

 白人労働者階級が感じている無力感。『移民労働者達が地域コミュニティの中で、「自分たちは周縁化された存在である」と団結して声を上げることができるのと対照的に、貧しい白人達は、草の根のレベルで団結して声を上げることもできず、「君たちは貧しくとも白人なのだから、困窮しているのは自己責任の問題である」と見なされ、堂々とマイノリティであることを主張できなくなる。移民やLGBTなどのグループと比較すると、「不満の声を上げてはならない周縁グループ」と見なされているのである。(中略)こうして白人労働者階級のコミュニティは、自ら社会から孤立し、自分たちの不利な立場について、「自己責任だ」と見なされることをうけいれてしまう。

 「ホワイト・トラッシュ(白い屑)」といった表現は、白人の下層階級が社会から周縁化され、社会的排除の対象になっているグループだということを象徴的に示しているのにもかかわらず、である。』(N1265

 『政治的支配者にとって、「階級」は引き続き禁句だった(なにしろ、ブレア政権は「いまや英国はみな中流層」と言っていたのだから)から、社会の不平等について語る時基準になるのは「人種」だった。

 こうした風潮の中で、それまでは「労働者階級」として使われていた言葉にも、いつの間にか「白人」という言葉が冒頭につくようになっていた。(中略)それは「白人」であれば人種的にはマイノリティではないので、「差別」や「平等」を考えるときにスルーして構わないとみなされ、社会のスケープゴートにしても批判されないという支配階級にとっての利点があった。

 別の言葉でいえば、90年代以降、歴代政権は、階級の問題を人種の問題にすり替えて、人々の目を格差の固定と拡大の問題から逸らすことに成功してきたのだ。これは経済的不平等の問題に取り組みたくない政治家たちによるシステマティックな戦略でもあった。

 このような戦略が、どんな皮肉な結果に結びついたかということは、2016年のEU離脱をめぐる国民投票の結果を見れば明らかだろう。』(N2687)