本好きの下剋上 第三部領主の養女4

 冒頭の下町パート、富裕な町人が住む街の北側のギルベルタ商会に移ることになったトゥーリに対して同じ下町から北に移ったルッツが、色々と必要なものを教えている。ルッツが町の北の常識にも馴染んだことがわかるし、色々と準備する必要があるものがあってトゥーリと母エーファが驚いているのもいいね。
 新しい印刷機が完成して、貴族間で語られている騎士物語をもとに騎士の仕事を格好良く書いたものを印刷。そして挿絵はフェルディナンドをモデルにして「この物語は虚構の作り話です」と書くことで、神官長からのお叱りを避けようと試みる。それにヴィルマが少し呆れているのが面白い。実際には前世での知識からを使っただけだが、この世界ではその表記なかったから、お叱り回避をしつつそのイラストを頒布するためだけに頭を使いそんなこと考えついたと思われているのだろうな。
 フェルディナンドが一旦還俗する。そして領主命令で神殿にとなるので、護衛騎士を持てるになる。そのことでエックハルトが再びフェルディナンドの護衛騎士として活動できるようになると嬉しそうにしているのがいいね。
 ローエンベルクの山。春の採集時に女性陣だけローゼマインのバスで寝たら、そのバスだけ動かされて、男性陣が手出しできなかったことの反省を踏まえて、今回は彼女のバスを大きくしてバス内で全員で寝る。フェルディナンドが苦々しい様子でそれを言っていて、ローゼマインの安全重視で本当に仕方なくそうしているのがわかって面白い。
 ベンノとマルクがやって来た時にギルがいなくて、フランは隠し部屋に苦手意識があるのでついてきてほしいと言えないから隠し部屋を使えない。そのためそのまま孤児院長室で話をしようとしたマインに対して、フランが『苦手な場所も克服したい』(P255)といって、マインがベンノらと隠し部屋で会話するように促す。このシーンの主従の互いを気遣う優しさがいいね。
 研究者肌のフェルディナンドが手押しポンプの構造に興味を持って、興味深そうに生き生きしながらザックを質問攻めにしているのが可愛い。
 ゲオルギーネ登場、今後もエネミ―としてでてくる人だが、彼女が登場すると変に緊張した嫌な雰囲気になるから嫌だな。
 今回で幽閉されている領主の母が少し出てきたけど、ヴィルフリートもその人に育てられたのだから、中々に複雑な立場で心情だろうなと改めて感じる。よくそれであのように明るくあっけらかんとした人柄を保っているなと感心する。まあ、それは領主ジルヴェスターもそうか。父からの血なのか、それとも彼女に溺愛されるとそういう人柄になるのか。もし後者ならその人には少なくとも一つは美点はあるのね。
 巻末短編「ダームエルの申し出」エルヴィーラいわく『騎士物語が目の前で演じられているよう』(P178)な星結びの儀式でダームエルがブリンギッテを元婚約者から助けた時の様子が書かれる。
 「イルクナーでの滞在」イルクナーに滞在するルッツやギル、ダミアン(商業ギルド長の孫。フリーダの兄)らの生活の様子、都市との違いについて語られる。お金を出しても下働きを雇えないとか、店が一つもなく『旅商人が来た時はギーベが買い付けて、ギーベの館に保管される』(P367)という相当な田舎。田舎田舎と書かれていたが、金の使いどころなく金がほとんど意味をなさないって想像よりも大分田舎レベル高くて驚いた。
 おかげで下働きを雇うつもりだったダミアンが非常に苦労しているようだ。