聖女の遺骨求む 修道士カドフェル 1
聖女の遺骨求む ―修道士カドフェルシリーズ(1) (光文社文庫)
- 作者: エリスピーターズ,大出健
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/03/12
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
12世紀、イングランドはシュロップシャ、シュルーズベリ大修道院の修道士達は、副院長・ロバートを先頭にウェールズに向かった。教会の権威を高めるために、寒村の教会に残された聖女の遺骨を引き取るためだった。ところが拙速に進めようとする修道士達と、村人達は一触即発の状態。そんななか、反対派の急先鋒で地主のリシャートが殺害されて…。大人気『修道士カドフェル』シリーズ第一弾がここに。
以前に読んだ米澤穂信「折れた竜骨」の解説かあとがきで、このシリーズのことに触れられていて、12世紀のイギリスを舞台にした推理小説ということでちょっと興味を持っていたが、結構長いシリーズなのでちょっと読み始めるのに尻込みしていたが、とりあえず1巻は読んでおこうと思ってようやく1巻読了。
主人公である修道士カドフェルはウェールズ出身で、薬草に詳しい十字軍帰りの元騎士。
よくヒステリー的な発作を起こすコロンバヌスの発作を利用して、そうした発作で意識が混迷する彼を聖ウィニフレッドの導きで回復した(奇跡を起こした)として、ウェールズの村に葬られて忘れられている聖人ウィニフレッドの遺骨を自分たちの修道院に持ってこようとする。
カドフェルがいるイングランドの修道院の副修道院長ロバートは、聖人の骨を自分たちの修道院に持ってきて、それを功績にして宗教界で出世したいと願っている。
カドフェルはウェールズ語の通訳としてロバートらとともにその村に行くことになる。ウェールズのグウィネズの王(当時ウェールズはイングランドに併呑される前)やその地の司教には許可を貰ったが、ロバートはそれによって聖人が眠る村の村人に対して当然の権利のように居丈高にふるまった。敬意を払い、しっかりとその聖人の遺骨を熱願していることを話せば譲ってもらえた公算もそれなりにあったがその無礼な態度で、村人たちから反感をかって、聖人の遺骨を譲ってもらうのが難しくなる。
そんな折に起こった村の有力者でロバートが買収しようとしたことで怒って反対派となったリシャートが死亡する。
当初犯人と怪しまれていたエンゲラードが、とてもそのようなことをする人物に見えなかったのと、被害者の娘でエンゲラードと恋人関係にあるシオネッドもそう思っていて、父を殺した真犯人を知りたがっていることもあって、カドフェルは犯人を見つけ出そうとする。とはいっても上役であるロバートの手前、表立ってではなく、話を色々聞いたり証拠を見たり、シオネッドに演技してもらって探りを入れたりして見つけ出そうとしてる。
カドフェルが、死体にその者を殺した者が触れると告発の血で死装束が赤く染まるという俗信から、実際に怪しい面々に死者の身体を障らせて動揺しているかを見ようとしている。そうしたかまかけ(調査)などで、その時代ならではのものをからめてくるのはちょっとおっ! と思って、なんかうれしくなる。
最後の村人たちと共謀して、聖ウィニフレッドと見せかけて犯人の骨を渡すというブラックなオチ。そのオチは、村人たちにとってはいいかもしれないけど、行った人間が恥をかくというのではなく、その詐術によって偽物(しかも殺人犯の骨)を渡されて本物だと思ってありがたがるだろう、それを知らずに純粋に喜ぶ修道士だったり、信者を今後ずっと騙すことにつながるし、何の罪のない彼ら彼女らを愚弄する行為だと思うので、後味が悪い。信仰が篤い世界で意図的に神聖冒涜するような行為は個人的には苦手だわ。
中世に偽の聖遺物はたくさんあっただろうけど、それは持ってきた人や振興する人々は本当だと信じて、怪しげと思う人もいたかもしれないし、偽者を売った人はいると思うが、カドフェルのように自分がいる修道院に偽の聖人の遺骨を持ち帰るなんて裏切りをした人はいるのかな。まあ、いたとしてもそれが彼の行為の免罪符とはならないと思うが。
ノンシリーズの短編だったらブラックユーモアな終わりだと済ませるだろうけど、シリーズ物で主人公がそうした行いを提案して実際にやっているというので、個人的には主人公に好感持てないからシリーズの続きは読まないと思うわ。
まあ、そうした人の気持ちを考えずに単純に偽者を崇めてプラシーボやら何やらで奇跡が起こっているというこっけいな構図に笑えればいいのかもしれないが、そうして騙されていて、今後も騙され続けると思うと笑う気にはなれない。
村人側がそういう策略を用いて、カドフェルは気づいたけど、それはそれで円満に解決する手段だと思って口をつぐんでいたとかならカドフェルに対して悪感情を抱くこともなかったのだが、積極的に自分からこの詐術を考案しているんだものなあ。