イリュージョン

イリュージョン―悩める救世主の不思議な体験 (集英社文庫)

イリュージョン―悩める救世主の不思議な体験 (集英社文庫)

Book Description
青春小説の名作、感動のファンタジーの新訳
心優しき飛行機乗りと「救世主」を名乗る男の真の自由と愛を求める旅は、驚くべき奇跡が続々と…。『かもめのジョナサン』の著者バックのもうひとつの代表作! 不滅の青春ファンタジー

内容(「BOOK」データベースより)
7月のある日。古い複葉機に客を乗せ、10分間3ドルの遊覧飛行をしながら、気の向くままに各地を回っていたリチャードは、風変わりな同業者ドンことドナルド・シモダと出会った。かつて救世主と騒がれながら、あっさり「救世主をやめた」というドンと旅をともにしながら、小さな奇跡を目にする。次第にリチャードは、ドンの究極の自由の世界へと魅了されていく。不滅の青春ファンタジー


僕がこの本を知ったのが、文芸ジャンキー・パラダイスさんの命の恩人・魂の作家ベスト〜外国文学編で引用されていた文章

・「やあ、君がなぜか寂しそうに見えたんだよ」「君だってそう言えばそう見えるぜ」「じゃまかな?じゃまなら消えるけど」「いや、待ってたのさ、君をね」「そうかい、遅くなってごめんよ」

からで、新訳版が文庫になったので購入
新訳版でのその部分

「寂しそうだね」ぼくは離れたまま声をかけた。
「きみもそう見えるよ」
「迷惑はかけない。邪魔なら、退散するが」
「いいや、きみを待っていたんだ」
そう言われて、ぼくはにっこりした「遅くなって、すまない」(27p)

主要な登場人物がリチャードとドナルド・シモダの2人しか出てこない。
リチャードもドナルド・シモダも比較的冷静で穏やかな性格なので、個人的には読んでいて心地のよい人物造形だった。
基本的に二人の会話だけで進むのだけど、飽きずに読むことができた。
帯に書いてある青春ファンタジーという言葉なんだけど、主人公のリチャードというキャラは、作者自身をモチーフにしていて、エピローグの台詞からするとかもめのジョナサンを書き終えたあとのようなので、30代半ばから後半くらいの設定だと思うので、青春という言葉は少し違和感があるように感じる。

「人々がもとめているのは、ぼくじゃない。奇跡さ!それを、ぼくがほかの誰かに教えてやってもかまわない。そのものを救世主にするがいい。彼にはつまらない仕事だなんていわないよ。それに、『逃げてはいけない大問題など、なにもないのだ!』」
ぼくはエンジンカバーから干し草へ滑り降りて、三番と四番のシリンダーのナットを締めはじめた。緩んでいたのは全部ではなく、数個だった。
「それはたしか、犬のスヌーピーが言った言葉だろう?」
「どこにあった言葉でも、ぼくが引用するのは真実さ」(50p)
「空はいつだって完璧さ、ドン」
「絶え間なく変化していても、やはり完璧ということかい?」
「とうぜんさ。そういうことだ!」(112p)

「リチャード、今日の経験を忘れないように、学んだときのことは忘れやすいし、こうしたことは夢だとか、昔の古い奇跡だとか、そんな風に考えがちだ。奇跡はけっしていいものじゃないし、夢だってすばらしいものなんかじゃない」(126p)

どんなことであれ、傷つくか傷つかないかは、本人が選択することだ。決めるのは本人なのさ。ほかの誰でもない。(143p)

「いや。これは夢さ。べつの時空なんだ。べつの時空はどれも、まともな分別のある地球の人間にとっては夢なんだよ。きみはまだしばらく地球の人間でいることになっている。だけど、これを忘れることはないだろう。そして、きみの考え方も、人生も、これで変わるのだ」(188p)