ミーナの行進

ミーナの行進 (中公文庫)

ミーナの行進 (中公文庫)

 いつしかミーナが部屋に入ってくる。唇をぎゅっと結び、瞬きもせず、ほんの背表紙を目で追っている。スカートのポケットの中でマッチ箱をかさこそいわせながら、本棚の前を行きつ戻りつし、やがて一冊の本を探し出す。ブラウスがスカートからはみ出すのも気にせず精一杯背伸びをし、目指す本を引っ張り出し、か細い腕で抱きとめる。クッションを胸に当て、ソファーに寝転がって本を開けば、ミーナはもう遠いどこかへ旅に出ている。(P83)

小川洋子さんの長編を読もうと思って、最近に文庫化されて、裏表紙に谷崎潤一郎賞受賞作と書いてあったので(とは言ってもほかの同賞の受賞作は知らないけど、最近の作で、賞をもらっているんだからというわりと安易な理由で選んで)、読んでみた。
幸せな過去の記憶。やさしい物語、今の心境的には毒のある作品よりもそのような作品の方が好きなので、個人的には、そういう作品を求めているときにこの小説を読めてよかった。
大きな事件があるわけでもない、過去の出来事を書いているのに、面白くてページを読む手が進む。
ローザおばあさんのキャラクターが好き。