現代アラブの社会思想 終末論とイスラーム主義

現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

現代アラブの社会思想 (講談社現代新書)

出版社/著者からの内容紹介
なぜ今、終末論なのか。
なぜ「イスラームが解決」なのか。
学術書からヒットソングまで渉猟し、苦難の歴史を見直しながら描く「アラブ世界」の現在。

終末論の地層――イスラーム教の古典的要素にさかのぼることのできる要素の上に、近代に入ってから流入した陰謀史観の要素と、現在に流入したオカルト思想の要素が、いわば地層のように堆積して、現代の終末論は成り立っている。そして、イスラーム教の古典終末論の要素にも、また積み重ねがある。イスラーム教はユダヤ教キリスト教から続く「セム的一神教」のひとつである。ユダヤ教キリスト教が発展させた終末論体系を基本的に継承しており、両宗教から受け継いだモチーフがかなり多い。その上に「コーラン」や「ハーディス集」によってイスラーム教独自の修正や潤色が加えられている。――本書より

第2部の感想と個人的な内容の整理。
「人民闘争」「イスラーム的解決」が現実の前に費えるのと同時に終末への関心が高まった。
終末思想は、セム的一神教の終末観と陰謀史観とオカルト思想が混淆したもの。
現代のアラブ人の文法と語彙によって、7世紀のクルアーンをほとんどそのまま理解できることができるというのはすごいなあ。
『偽救世主ダッジャール』は長く濃い髪を持った左目の見えない片目の男で、額には「カーフィル(不信心者)」と書いてあり、「善と悪」の価値を転倒させ「偽りの繁栄」「偽りの平和」を示して神の道から踏み誤らせようとするものと信じられている。
陰謀史観は終末論と融合し、「シオニストユダヤ人」、「アメリカ人」=ダッジャールあるいはその配下であると論じられる。リマーダという人は、ユダヤ人をダッジャールの灰化であると論じ、その根拠をハディースに出てくるダッジャールに従うイスファーンの七千(ないし七万)のユダヤ人の出現が現代のユダヤ人の陰謀といっている。あるいはF・サーリムのようにユダヤ人を「ヤージュ―ジュとマージュ―ジュ(旧約聖書新約聖書の『ヨハネの黙示録』のゴグの地マゴグのモチーフを若干変更して受け継いだもの)」とみなして、イスラエルの建国を終末の最終的前兆として解釈するものもいる。
2部では、オカルトとごっちゃになっているようなものも多いので、はたから見たら終末思想の本なんてヨタ本くらいとしか思えないけど、それも底流ではその考えが結構受け入れられているのか。政権側が陰謀史観の流布を黙認あるいは積極的に促進していた時期があったから陰謀史観はある程度受け入れやすかったのだろうけど。
終末論・陰謀史観・オカルト思想の結合で現在の国際状況が終末適当そうだから、イスラーム世界は最終的には勝利する。とあるが、それは世界の崩壊の果てにおいて神による審判の場における勝利である。現世的解決でなく来世的な解決が求められているといえ、来世の幸福があるので終末論は一種の希望を与えている。
あとがきにあるようにアラブ世界の思想的袋小路は一体今後どのようにして解決されるのだろうか。