鳥類学者のファンタジア

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
「フォギー」ことジャズ・ピアニストの池永希梨子は演奏中に不思議な感覚にとらわれた。柱の陰に誰かいる…。それが、時空を超える大冒険旅行の始まりだった。謎の音階が引き起こす超常現象に導かれ、フォギーはナチス支配下、1944年のドイツへとタイムスリップしてしまう―。めくるめく物語とジャズの魅力に満ちた、ファンタジー巨編。山下洋輔作曲のオリジナルテーマ曲楽譜も特別収録。

奥泉さん、有名だけど読むのはじめて。この本は前から読んでみたかったけど、750ページとかなりの厚さなので、なかなか読む踏ん切りがつかなかったけど、ようやく読了。
改変はしていないけど、舞台が歴史的に重要な時代にタイムスリップということと(音楽の)歴史上の有名人が多く出てくるということで、どこか歴史改変SFっポイ感じだ。
『かつて学生時代、本当はピアノが好きじゃなかったの、と告白する同級生がいたりすると、いまごろ何いってんの、ったく、きがつくのがオセーんだよ、と内心でののしっていた私であるが、四捨五入すれば四〇歳になるような歳になって(わざわざ四捨五入しなくてもいいが)、それもプロにまでなって、いまさらピアノは嫌いですでは、遅いどころかまるで馬鹿だ。』(P111)そういう好き嫌いというのは、毎日習慣的にやっていると逆に気がつかなかったりするのかね?
戦時のドイツにパスポートや現金もなくタイムスリップしたから、身分的にかなり不安定な状態だけど、軽いなあ、フォギー。語り手が楽観的だから、読むのに重苦しさがないのがいい。どういう理由であれ身分を偽るのは、いつばれるのか気が気でないしてちょっと読むのが辛い(どんな面白いといわれている作品でも、面白く感じられないぐらいには苦手、明確に苦手だと意識している数少ないシチュエーションの一つ)のだけど、フォギーの気質のせいもあってかそんなに読みづらくならなかった。
『世界中でドイツ人くらいコーヒー好きな人種はなく』(P210)というので、佐藤亜紀さんの「天使」で主人公と兄(ネタバレ)の会話でコーヒーが出ていたことを思い起こし、こういう理由(?)もあって、そういう会話が出てきたのかと今更合点がいった。まあ、あっちはオーストリアだけど。
『ジツゾン哲学を考えた人というのは、悩みのない幸福な人生を送った人ではないかという仮説である』(P262)この指摘と説明は、思わず納得した。
『西洋の小説などで、登場人物の風貌容姿について延々と書いてあっても、わかったためしがない』(P323)なんかシンパシー感じる(笑)
『フォギーさんは、奥泉光っていう作家を知っていますか』(P565)いきなりメタっぽくなったと思ったら、光る猫は『「吾輩は猫である」殺人事件』にその話が載っている、って宣伝かい(笑)
しかし、タイムスリップしていた期間存外に長かったなあ。