コンニャク屋漂流記

コンニャク屋漂流記

コンニャク屋漂流記

内容紹介
返還時の香港に密着した骨太なルポルタージュや、ネコと暮らす日常を淡々と描いたエッセイなど、独特な作風が支持されている星野さん。最新作は、「コンニャク屋」と呼ばれる漁師だった自身の一族の歴史がテーマです。祖父が残した手記を手がかりに、五反田から千葉・御宿、そして和歌山へ、ルーツ探しの珍道中が始まります。笑いと涙のなかに、家族や血族の意味を静かに問い直す作品です。


星野さんの本、なにかもう一冊読みたいなあと結構前に「謝々!チャイニーズ」を読んでから思っていたが、読む機会がイマイチなかったので、これを読むまで大分時間がたってしまった。タイトルからは、図書館の伝記の棚にあったので、コンニャク屋のノンフィクションかなと思ったが、「コンニャク屋」という屋号を持った祖父の実家の漁家(漁師というと1人って感じになるが、漁師に、農民に対する農家にあたる語ってあったっけ?と思ってググってみたらどうも「漁家」でいいようだな、普段では耳にすることのない語だが)の祖父の時代(祖父が死期が迫るなか残した手記を基に)の話や、漁家としての始まりの歴史を探ったり、というような家族史。

最初に「漁師の末裔」というのを強調しているのがちょっと、と思ったが、『つまり自分でも漁師っぽくない、どちらかといえば農民や工業っぽいと自覚しているからこそ、そこから脱出するための手段として漁師宣言が必要になるのだ。』(P12)とあらかじめ言って、自覚していることを示してくれていることはありがたい。そうじゃなければ、漁師の部分強調しすぎて、きっと、ちょっと鼻について読む際に気になってしまうから。

ドン・ロドリゴ、岩和田の有名人、近くで難破して助けられたため、彼の書いたものに岩和田が出てくる。ロドリゴ前後という区切りで地元の歴史について認識をしているというのも面白いな。それと、「元禄の大津波」について母の実家では伝承されていて、普段海で死ぬことが多い、漁師達の村である岩和田では伝承されなかったというのも興味深い。

祖母のエピソード、タバコ吸わないのにもったいないからといって吸殻を吸う、というのは、実際にあったことなのに本当かいな?と思ってしまうようなエピソードだな。というか、同じ御宿という地域の出身でも農家と漁家でそんなに気質が分かれるのかというくらい、明確な気質の違いが面白いな。星野さんが自分が祖母似ということを指摘されるエピソードや、(星野家には珍しく)猫好きという共通点があったということに気づく話は好き。星野さん自身は祖父の方に共感をもって、このような家族史を書いているのに、祖母に案外似ているということに気づくというのは、なんとなく面白い。

方言の語尾に「だお」とあるのは、どうもやる夫を想起させられるので、真面目なことを言っててもどうもどこかふざけているんじゃという邪推をしてしまうなあ(笑)

祖父の手記、当時の辛い話はあまりかかれていないということはいいね。辛い話を読んでいるとこっちも辛くなってしまうから、人物に共感がなるべくわかないように断片的なエピソードだけ引用とかなら気にしないんだけどね、こうしてある人物にフォーカスが当てられその人物の苦労話を長く書かれると、どうしても読むのがしんどくなってしまうからね。借金踏み倒されたことが多かったようなので、どうも人が善かったようだね。ただ時代的にしょうがない部分も、とあるけど。

祖父の母方の祖母、武家の娘。駆落ち同然で漁師の嫁に、ってなんかロマンスという感じのエピソードだ。

祖先、鰯の漁場のために紀伊から外房へ移住。ただ、記録が地元では多数の火事でほとんどなくなっているので、祖先と思われる北川五郎右衛門との確実な関係が分からないというのが残念だねえ。