物語工学論 キャラクターのつくり方

物語工学論 キャラクターのつくり方 (角川ソフィア文庫)

物語工学論 キャラクターのつくり方 (角川ソフィア文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「物語は、どうやって、どこから創ればいいのだろうか?」。『塔の中の姫君』『あぶない賢者』ほか、キャラクターメイキングの七つの類型から、“物語”の構造と本質を解き明かしていく。各キャラクターをゼロから作成できるチャートも掲載。『フルメタル・パニック』の著者・賀東招二氏との対談から、実作上の悩みや注意点などもわかる!“物語”創りのノウハウを様々な角度から吸収できるクリエイター志望者必読の書。


 こういうキャラクターの類型だったり、その大枠がどういう風に敷衍され実際の小説で現れているかなど、更にキャラクターチャートがあり、簡易的なそのキャラを作り方やそのキャラと親和性の高い他の類型のことが書かれている、そういうまさに今まで小説の書き方の本で本当に読みたかった内容(抽象的すぎず、理論的で難しすぎない)が書かれているので嬉しい。

 「多くのものを失ったヒーローが帰ってきて、みんなは救われているが、救ったのは彼だと誰も気づかない」というので、『ロード・オブ・ザ・リング』のラストでのフロドを例としてあげているが、それを読んで「坂の上の雲」で知った日露戦争時の沖縄の漁師のエピソードを思い出した。「塔の中の姫君」のバリエーションとして、ある種の従属関係・服従関係・束縛関係に「囚われている」キャラもあるということは、その2つを関係したものとして捕らえていなかったので、ちょっと驚いた。
『「わかりやすいドラマ」の基本構造というのは、実はフランス革命の標語であるところの「自由、平等、博愛(同士愛)」を裏返した、「束縛、服従、偏愛」である』(P45)なるほどなあ。
『悩むことが陳腐になってしまった、という二十世紀後半における社会通念の変化』(P76)たしかに、悩んでいるキャラを見ても、それより行動を!と思ってしまうもんなあ、まあ、それは自己嫌悪って側面が強いのかもしれないけどw

 「二つの顔をもつ男」の類型は、近世の義賊よりもさかのぼると、「さまよえるハコウ(漢字がでん)者」と区別がつかなくなってしまう。というのは、気をつけておくべきことなんだろうなあ。と思ってから、小説なんて書かないんだから、何考えてんだよ俺ってなったわwでも、こういうわかりやすい物語(キャラクター)づくりの本を読んでいるとなんだか書きたくなってしまうよね。僕は飽き性かつ面倒な(時間のかかる)行為をするのに億劫なので、きっと書かないけれどね。

 「時空を超える恋人たち」二つの秩序という障壁に直面しての、それを乗り越えようとする努力や葛藤を描く類型。

 「あぶない賢者」少数の定番パターンに収束できる類型。『偉大なる知識を得た後、<あぶない賢者>は天罰によって(あるいは天罰としか思えない当人の失敗や増徴によって)死んでしまうか、もしくは彼のせいで世界が滅びるか、颯爽とヒーローが登場して彼を倒すか、はたまた彼自身が悔い改めて発明品を壊すか』(P132)こういう少数の定番パターンがほとんどを占める類型とその説明というのは、パターンが少ない分、自分でも拙劣ではあるが意味の通った物語が書けるんではという期待を、ちょっと持ってしまうな。
 あと、『<賢者>は人のために善かれと思って「何か」をもたらす』(P140)というような文章を読んで、異世界チート内政の主人公というのは「あぶない賢者」なのかなと思った。
 技術の発達や知識が幸福にするということを大勢の人がそれに賛同したのはここ百年ほどであるという話は、あらためて言われると、技術・知識と幸福との関係を現在のような捉え方が主流になったのってまだ最近なんだな。
 20世紀に入ってからの<あぶない賢者>の有力なバリエーションとして、<多忙な万能者>がある。さらにそこから「退屈な万能者」というバリエーションも生まれつつある。

 「親殺し」類型を弱めたものに、「父を乗り越える」「父に勝つ」物語があるという観点もなかったので、目から鱗
 古い秩序を覆すという意味で考えたら、革命家も「造物主を亡ぼすもの」の類型に入るのか。
 『キューティーハニー』について言及されている(『如月ハニーという存在は「類型の多層的併存」を見事に実現した実に稀有なキャラクター……もしかしたら究極のキャラクター……なのかもしれません』(P164)だったり『愛情によって自分を創った造物主をそれゆえに愛し、その造物主を殺した相手に『復讐』する権利を主張する』(P169))が、それを読むと今まで興味なかったが『キューティーハニー』という作品が読みたくなってくるな。

 対談、小説指南サイトについての話で『そもそも小説の書き方と、物語の作り方と、アイディアの捉え方というのは、それぞれ少しずつレベルが違う。小説の書き方の部分があまりに精密になりすぎちゃったせいでほかの二つワヤになっちゃっている感じなのかな?』(P208)とあるが、なるほど、そう指摘されてようやく得心がいったよ。

 わざと崩す技法、『文章読本さん江』で例としてあった、ファッションで、田舎者はピシッとして着るか、都会人は着崩す(うろ覚えだが)。そういうのと同じかな、文章を崩すには文章の基礎が、物語をそうして崩すには物語の基礎が必要という前提はどちらも同じで。

 補章Bが文庫版には収録されていないということなので、それも読んでみたいから、もしかしたら、そのうち単行本を買うかも。

最後の参考資料一覧の中で気になったもの。
「くじ」シャーリィ・ジャクスン

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

 最近、短編を読まなくてはという気になっているので読もうと思ったが、アマゾンのレビュー見ると、鬱っぽいようなので、きっとそのくらい雰囲気にばかり気をとられてほかに注意が向かないだろうという予測がつくから、読むか微妙。文庫だったらとりあえず買うというのもありだろうが。
八犬伝の世界」高田衛
完本 八犬伝の世界 (ちくま学芸文庫)

完本 八犬伝の世界 (ちくま学芸文庫)

 アマゾンで新品なく、マケプレでは定価超えかあ。とりあえず、新品で変える状態になったときに存在を覚えていたら買おう。
「ダイハード」 映画、ここ数年見てない、というか人生で見た映画なんて10本あるかないかだが(見なければとは思ってはいるんだが、どうも僕は映像メディアでの物語が不得手らしい)、見てみようかなあ。
「鷲は舞い降りた」ジャック・ヒギンズ
鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)

鷲は舞い降りた (ハヤカワ文庫NV)

 冒険小説というジャンルの小説は読んだこと(少なくとも事前に冒険小説と意識しては)ないが、紹介の最後の太字の一文から読みたくなってきた。