県庁おもてなし課

県庁おもてなし課 (角川文庫)

県庁おもてなし課 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
とある県庁に生まれた新部署「おもてなし課」。若手職員の掛水史貴は、地方振興企画の手始めに地元出身の人気作家・吉門に観光特使を依頼する。が、吉門からは矢継ぎ早に駄目出しの嵐―どうすれば「お役所仕事」から抜け出して、地元に観光客を呼べるんだ!?悩みながらもふるさとに元気を取り戻すべく奮闘する掛水とおもてなし課の、苦しくも輝かしい日々が始まった。地方と恋をカラフルに描く観光エンタテインメント。

 有川さんの小説だから面白い。だけど、正直実在の組織に取材しているということと、まだそれが成功裡にはいたっていない状態というのと、いつもと違う新聞小説だからというのもあるのか、終わりになっても彼らの目標が達成できるかもよくわからないということもあってちょっともやもやが残るから、普通に面白いという域をでないなあ。地方観光の事情に重きを置いているから、純粋な物語としては面白いけど平凡という印象になってしまっているのかな。いや、そうしたテーマを小説に組み込んで読みにくさを感じさせず面白く読ませる、有川さんの筆力はすごいけど。
 高知の県立動物園の説明で、猛獣が逃げ出したら危険ということで、大型肉食獣が一切いないから『一体誰が言ったか、「基本的に人間が一対一で渡り合って何とかなりそうな動物しか置いていない」動物園』(P9)と書いてあるのには笑った。
 公と民間との、時間に対する感覚がそれほどまでに隔絶しているのね。学生とか趣味でやっている人たちならしょうがないかもしれないが、仕事としてやっているのだから、とりあえず特使をお願いしてから、のろのろとやっていちゃいかんでしょ。というか、こうした公務員の仕事を見るに、楽そうで責任もあまりなさそうだから羨ましいなあ、こういう仕事こそ個人的には理想の職業だな(楽そうだから)、と思っちゃった(失礼)。
 掛水と多紀が日曜市で楽しんでいるシーンは好きだな。
 『佐和は口が裂けても県庁の奴を『優しい』とか『お人好し』とか言いたくないんだ。だから表現が複雑骨折する』(P217)「表現が複雑骨折」という表現は面白くて好きだな。
 清遠、「仕事だから」といって因縁のある県庁の話も拘らずに聞いていたが、彼の真意は「仕事」というだけでなく、『今の地元の惨状をどうにかしたかったはずや』(P237)というような背景があり、一個人では変えられないことを県庁と仕事することで変えられるかもという気持ちもあったから、因縁のある県庁との仕事に少しの難色も示さなかったのか。しかし、そういう愛郷心の強く有能な人間を県庁は、またも邪険にしてプロジェクトから引き剥がすことになったというのは残念だ。
 パラグライダー、吾川テーマパークの地形がいいとはいえ、天気が良ければ軽く何時間も飛ぶことができるって、そんな滞空時間の長いものだということを初めて知った!
 「道の駅」という施設を清遠は「かつての建設省の最大の遺産」といって褒めているが、家族で普段車を運転している人がいないし、免許も持っていないし、かなりインドア派なもので正直存在自体初耳だった。たまに本を読んでいてはじめてこういう一般常識を知ることがあると、自分がいかに一般常識を知らないかに改めて気づいて少し凹む。
 喬介と佐和の子どもの頃の旅行のエピソード、そしてその時の清遠と喬介のエピソードもぎこちないながらも優しさに溢れているので好きだ。
 掛水の家に吉門が泊まりにきたときの、吉門の見せた子どもっぽさは今までとのギャップでより可愛らしさや微笑ましさを感じ、その子どもっぽい面をみると彼がより魅力的に感じるなあ。