わが盲想

わが盲想 (一般書)

わが盲想 (一般書)

内容(「BOOK」データベースより)
ひょんなことから19歳で来日。言葉も文化も初めて尽くしのなか、さまざまなピンチに見舞われながらも、日本語、点字鍼灸の専門用語、オヤジギャグを使いこなすまでになった著者。パソコンの音声読み上げソフトを駆使して自ら綴った、爆笑、ときどきホロリの異文化体験手記。

 あまり単行本を新刊で買うことはないのだけど、高野さんの「移民の食卓」のあとがきで、高野さんの「異国トーキョー漂流記」や「移民の食卓」に登場した盲目のスーダン人アブディンさんがweb上でこれを連載してことを知り、読んでみたいと思ったので、webでの連載を見つけて読んだら、思っていた以上に面白く、また連載分をwebでの最終回まで一揆読みしたのだが読み終えたのが、発売日が迫った時期だったので、単行本書き下ろしの分も読みたいと思い、その気持ちが強いまま発売日を迎えたので当日に近所の書店にて購入した。
 あと、加筆だけかと思ったら、初めて日本に来るときの飛行機でのビジネスクラスの話がカットされているのね、他には特に気づいた限りではエピソードがカットされているところはなさそうだけど、なぜその小エピソードだけカットされたのか謎だわ。しかし、全12章のうち後ろの4章が書き下ろしということで、書き下ろしの量が思っていたよりも多かったのは嬉しかった。
 どうやって文章を書いているのかというと、音声読み上げソフトを使って、パソコンで執筆しているようだ、しかし漢字変換のたびに『「前後のゴ」「藤の花のフジ」』など一々どいう漢字を使うのかを、音声で聞いて決定するというのだから、候補が沢山あったらものすごい手間だな、それにたとえ候補が少なくとも正しい漢字に変わっているのかをちゃんと音声で確かめなくてはいけないから、どちらにせよ時間がとてつもなくかかる作業だから大変そうだ。
 アブディンさんの家族って、生まれつき目が見えないのではなくて、年をとるごとに徐々に目が見えなくなってしまったのか、しかも兄や弟も同様の過程を経たようだ。本書のどの箇所で書いてあったかは忘れたけど、たしか、イスラーム世界ではいとこ同士での結婚がかなりポピュラーのようだから、そのせいで血が濃くなりすぎた、というのが大きな理由ではないかとご自身で推測されていたのを読んで、兄弟で視覚障害とは珍しいと思っていたので、その説明を聞いてなるほどと思った(ような記憶がある、うろ覚えで自信ないけど)。
 日本に留学に来る前までアブディンさんは大学で法学を学んでいたが、当時スーダンの大学は閉鎖され、再開のめどが立っていなかった、そうした時に、日本への鍼灸での留学話があることを知り、停滞している状況からの脱却するために、その話にのって鍼灸というよくわからないことだがチャレンジしてみようとしたが、実際に留学する人に選ばれるとやはり鍼灸での留学だから落ち込み、「火遊び」に近い気持ちだったと感じたが、選ばれたことを兄に報告するとすごく喜んでくれたから、また父に対する反抗心から、日本行きを決心した。
 東京にはじめて着いたとき、雪だったので、一緒にスーダンから日本へ来た、その留学者を募集していた団体の理事長さん(日本人)が、雪を触らせたというのは、好意なんだろうけど、本人が痛いといっているものを何度も雪の塊を載せてきたというのは、どうかと思うわ。しかし、この理事長さん、アブディンさんの勉強に付き合っていたときも、間違ったらデコピンしてきたというエピソードもあるし、茶目っ気があると思うよりも先に随分と子供っぽい人という印象を得るよ(笑)。
 教科書が点字に直されると5、6倍の厚さになると書いてあるが、それでは教科書が多いと非常に大変そうだ。
 5章の「雪の上にも三年」での、東洋医学の授業を受けたが、チンプンカンプンで泣き言を、共に授業を受けているTさん(40前後の子供が3人居る女性)に言ったら、私たちにとっても外国語なのよといわれて、肩の荷が下りたような気分になったというエピソードは好きだな。しかし、日本へ来るまでは、授業で重要そうなポイントをすごく集中して聞いて頭に叩き込み、友人に手伝ってもらい勉強するときに、そのポイント中心に覚える方法をとっていたから、教科書を読む習慣がなかったというのはちょっと驚きだ。
 外語大学に入学してからサッカー(ブラインドサッカー)や自転車(公道を走れるタンデム)という、目が見えていたころに好きだった趣味に再び出会い、ブラインドサッカーに情熱を注ぎ、自転車で出かけることができるようになった、しかし、自転車は2人のりで後ろに乗る人が多くこがないといけない構造になっているようだから、アブディンさんは前の人よりも大変だけど。こうしたできなかった好きなことが再び出来るようになった喜びは、きっと素晴らしいものなのだろう!
 しかし、自転車で在東京スーダン人主催のバーベキュー大会へ行ったというエピソードは、高野さんの「移民の食卓」でも似たようなエピソードがあったが、細部がだいぶ違うから、あれとはまた別のときのエピソードなのかな?それが少し気になった。
 ブラインドサッカーを通じて知り合った友人の福地健太郎さんは、日本語で道を尋ねると相手が必ず英語で返事をされ、そこにアブディンさんが加わると日本語で話してくれるようになるというのは面白い(笑)。更に、そのたびに『おかしいな、日本語をしゃべっているんだけど』とぼやいているというのがまた笑える。
 アブディンさん、はとこの紹介で、たった知り合ってから1ヶ月で結婚したとはめちゃくちゃ早い!しかも、電話でしか付き合いがないのに。
 最終章は、震災後に一旦九州へ避難して、はじめての子供が生まれたシーンで締めている