チャリング・クロス街84番地

チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本 (中公文庫)

チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本 (中公文庫)

ニューヨークに住む本好きの女性がロンドンのチャリング・クロス街84番地にある古書店マーク社にあてた一通の手紙からはじまった二十年にわたる心暖まる交流。ここで紹介される“本好き”の書物を愛する心、書物を読む愉しみ、待望の書物を手にする喜び、書物への限りない愛情は、「手紙」の世界をこえて、読む者を魅惑の物語のなかに誘いこむ。

 読んでいて、今までなんでこんな面白い本を読まないでいたのだと思ってしまうほど、面白し好みな本だ!しかしあまりに熱中して、面白かったところのページ数をチェックして、あとで感想を書きやすいようにすることをほとんど忘れていたので、読了した後長らく感想を書けていなかった(苦笑)。なのでパラパラと流し読みしながら、感想を書いている。
 イギリスの古書店と、そこの客であるアメリカの作家であり読書人もある著者との、約20年に渡る書簡集。しかし最後のほうにようやくイギリスに行くけど、それまで所管だけの付き合いというのがすごいな。そして単に2者間でなく、その古書店で彼女の応対役となっている、フランクさんの他、他の店員からの手紙や、イギリスに行った彼女の友人の女優からの手紙などいろいろな手紙が収録されている。著者の手紙に堅苦しさがないのもいいし、それに著者が望みの本を得た喜びを素直に表しているところや、第二次大戦後のイギリスがまだ食料が配給制であるころだから、お礼に食べ物を送り、それが非常に純粋に喜ばれているのを見るとほっこりするから好きだな。こうした昔の古書店とかでの本をめぐる話、あるいは物が貴重な状況下でのそうした物にまつわる話も両方とも大好きなので、当然この本も大好きだ。
 ちなみに、著者の知人の英国人いわく「チャリング・クロス街の本屋さんはみな"とっても小さい″」とのことだが、そうやってチャリング・クロス街の名前がよく知られているということは有名な古書店街、日本で言う神田みたいなところなのかな。
 『小生、七十五になる大叔母といっしょに暮らしておるのですが、牛肉の舌肉の缶詰を持ち帰りましたところ、大叔母は喜色満面のありさまでした。その光景をもしご覧いただけましたら、さぞ私どもの感謝のほどもお察しいただけましたことでしょう。』(P65)このような食べ物で喜んでいるエピソードを見ると、自分とはまったく関係のなくとも何故だかとても嬉しくなるし、心があったまる。
 そしてこの本の中で言及されている「ピープスの日記」の全訳がすごく面白そうで、きっと好みの本だと思い読みたくなったのだが、日本語版で全10冊で値段はばらばらだが、どれも三千円超で8巻なんて定価で9000円近くするのではとても買えない。あとサン=シモン公ルイの「回想録」は注に『晩年にいたる三十数年間、『回想録』の著述に専念した。これは当時最も重要な史料だったばかりでなく、文学史上も高く評価されている。』とあったので、30年以上もその著作に専念したということとその評価を知り、凄く読みたいと思ったのだが、翻訳がないのが非常に残念だ。
 しかし作者さんの小説とか物語は苦手で、日記や随筆が好きというのは、個人的には物語は好きだけど、好きな歴史のある時代のことを同時代的に面白く正確に活写した日記があるならそれはすばらしいだろうなと思えるから、なんとなくだがわかる気がする。ただ個人的に面白いと思えるのは、能力的に日本語の現代語になっている、翻訳されたものか、国内では明治から昭和にかけてのものに限られ、数も少ないので、それらばかり読むことが出来ないから、当然そうした欲求も抑えられているけど。まあ、古文などをしっかり勉強していないせいだけど、古文で楽しめるレベルに向上するのは遠い未来(か永遠にこないもの)だろうから、いまいち勉強する気になれないしね。
 しかし『毎年春になると書棚の大そうじをし、着なくなった洋服を捨てちゃうように、二度とふたたび読むことのない本は捨ててしまうことにしています。みんなこれにはあきれていますが、本に関しては友人たちのほうが変なのです。彼らはベストセラーというと全部読んでみますし、しかもできるだけ早く読み通してしまうのです。ずいぶん飛ばし読みをしているのだと思います。そして、どの本もけっして読み返すということがないので、一年もたてばひと言だって覚えていません。/それなのに、友人たちはわたしが紙くずかごに本を捨てたり、人にあげたりするのを見ると、あきれかえります。それを見守る彼らの目付きときたら、本というものは買って、読んだら、書棚にしまって、生涯二度とひもとかなくてもいいの、でも、捨てたりなんかしちゃだめよ!(中略)と言っているようなの。』(P129)あー、耳が痛い(笑)。