新約 とある魔術の禁書目録 9

内容(「BOOK」データベースより)
世界は滅んだ。オティヌスの支配は、成就した。闘いの舞台であるグレムリンの本拠地、東京湾上に浮かぶ『船の墓場』は消失した。それどころか、世界そのものも消えて無くなった。共に来たインデックスも、御坂美琴も、レッサーやバードウェイ達も当然消えた。統一された闇の空間。黒一色のそこに、上条当麻だけが残されていた。その理由は、ただ一つ。世界の基準点であり修復点でもある『右手』を持つからだった。神と成ったオティヌスにとって、上条当麻はすでに微塵も興味の無い存在となっていた。いつものように、ここから彼の逆転劇が始まる可能性は、全くない。ここうそういう『世界』だった。そして。そして。そして。これは、上条当麻の心を挫く物語。

 冒頭のイラストから不穏な雰囲気が漂うねえ。今回のような重苦しい雰囲気の話は精神的に辛くなるので苦手だから、読み進めるペースが落ちてしまった。しかし今回の挿絵は見開きだけなのは理由あってのことなの?
 オティヌスは自らの都合のいい世界を作れるとはまさしく神の所業だな。流石にここまで人外だとは予想外だったわ。
 彼女は上条に少しだけ変わった絶望的な、上条が世界の無用者だと感じさせるような、世界を多々味わわせる。そんな中で色々懊悩しつつも最後には、なおもヒーローとしての性質は失わずに前に進む決断をする上条さんの精神的な成長を描く巻という感じで、なんだかオティヌスは絶望を与えるためだといっているが、俯瞰してみると成長のための試練を与える神にも見える。
 彼女が2つ目に味わわせた世界で、雲川姉妹の反応を見るに、姉の方は上条へと矢印が向いているのね。薄々はそう思っていたが、ようやく今回確信を持つことが出来た。まあ、それは既に出てきていた情報で忘れているだけの可能性もあるけど(苦笑)。
 「連結ポイントの狭間で」で、細かく描かれた世界以外の、上条が体験させられた幾つもの世界が羅列されているが、ここまで多くの突飛なことをやられて、このように羅列されると、体験する本人にはホラーなんだろうけど、ギャグにしか見えないな(笑)。。
 しかし上条の右腕が、世界を改変できるような能力を持っているオティヌスでさえ、変更できない、制御できないものとはな、結局その右腕はなんなのだろうか。
 彼が存在しない平和な世界を見せて上条の精神と肉体を殺そうとしたが、その世界を作って魅せたのはある意味お遊戯みたいなもので、この世界をオティヌスが長く維持するとは思わないから、そこから普通に否定すればいいのではないかと思ったが、彼女がこの世界をいつ取り止めるかもわからないということに気づきつつも、もしかするとこの理想的な世界を続けてくれるかもと思って、その世界に自分はいてはいけない、居ると崩壊するという突きつけられて死のうという決心をするとは流石のヒーロー気質だな、良くも悪くも自分のことを全く考慮に入れないところを含めて。
 唯一その世界の中で彼を知っているミサカネットワークの総体と出会って、彼女と会話することで、自分の弱さや気持ちを出して、元の世界に戻りたいと決心する。しかし今回のミカサ総体と上条のシーンを見ていると、彼女がヒロインに見えてきてしまう(笑)。ミカサ総体は幸せな世界でも上条を犠牲にしたものならば、きっと元の世界の彼ら彼女らはその幸せを拒絶するだろう、今まで彼(上条)がやってきたことと同じようにといっているけど、それは言われることに意味があると思うから、彼女がそんなことを上条に言ってくれてよかった。上条は自己犠牲野郎と罵るにはあまりにも幸せで理想的に見える世界だから、それを崩す決心をするにはやはり他者からの言葉が必要だったからね。自分で世界の幸福を犠牲にしても、自分を生かすことを選んでいいんだとは普通言えないもんな。
 自分も生きてもとの世界へと戻る決心をした上条とオティヌスが闘いになったが、上条は何十万回も殺されようが、精神をしっかりと保っているどころかオティヌスのパターンとか攻略方法を見切ろうと死に覚えをしているというのは流石の超人っぷりだ。しかし上条を生かしているのは何でなのかが謎だったが、彼の右腕の力を彼女が望んだ世界を構築する際に消しゴム代わりに使おうとしていると、この戦闘シーンでの上条が発言しているのを見てようやく腑に落ちた。
 しかしオティヌスは上条を殺しきった後に、自分が欲していたのは彼女が元にいた世界に戻ることではなく理解者だったと気づき、上条こそがその理解者になりえた人だったことに気づき、当初の目的を取り止めて、上条がいる元の世界(本編)に戻ることとなる。幾つ物世界を渡って、自分が余計物だという感覚を存分に味わわせられる上条のシチュエーションといい、このオティヌスのシーンといい今巻はなんだか寓話的だ。
 上条は元の世界に戻ったが、そこはオティヌスが悪人をやっている世界で、上条とオティヌスが味わった体験は2人以外の人は知らないので、彼女が改心したことも知らない。唯一その事実を知っている上条はいつもの通りというか、彼女一人を犠牲にして世界を平和にしようとする直前の(彼の意識としてはともかく、他の人たちにとっては)試みを放棄して、彼女を守ろうと世界を相手取る。その行動はいつも通りだが、今回様々な自分にとって絶望的な世界を見てきて、殺されまくったある意味深く時間をともにした関係なので、オティヌスを守るという上条の台詞はいつもよりずっと重い。
 まあ、でも今回はこれほどオティヌスとの2人のシーンを描いていたのだから、ヒロイン化するとは薄々感じていたけど(笑)。
 「あとがき」の最後で『金髪碧眼の女神様が織りなす渾身のデレをご覧あれ』(P326)と書いてあったので、今回見てオティヌスは魅力的なヒロインになりそうだから、次回が非常に楽しみ!