ドキュメント 深海の超巨大イカを追え!

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社新書)

ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社新書)

出版社からのコメント
世界初! ダイオウイカ撮影の舞台裏
海に残された最大のミステリーに迫る!
感動と知的興奮を!

奇跡は起きるものではなく、起こすものだという。
世界中のテレビ局や研究者たちが、ひとめ生きている姿を見ようと憧れと畏怖の念をもって追い続けた存在――幻の怪物・ダイオウイカ――。
2012年夏、小笠原の海で、10年以上にわたってダイオウイカを追い続けてきた男たちが、奇跡を起こした。
誰もなしえなかった撮影を可能にしたのは、いったい何だったのか? 空をつかむ日々の連続で、気持ちをつなぎとめたものは何か。意中のものを手にしたとき、人は何を思うのか。
プロデューサー、ディレクター、カメラマン、研究者への膨大な取材で明かされる、感動のストーリー! カラー写真も満載。「NHKスペシャル 世界初撮影! 深海の超巨大イカ」の公式ドキュメント本。

◎カラー口絵16ページ+本文264ページ(一部カラー)


 二重カバーになっていて、イカの写真がでんと写ったカバーの下に、普通の光文社新書のカバーが付いているのはちょっと笑った。こんなのを見たのはたぶんはじめてだ(笑)。
 この本を買う前に本屋でしおり兼なんちゃら展の割引券にその写真を使ったものがあったのでそのときからずっと思っていたのだけど、カラーで載っている口絵の2-3ページ目のダイオウイカの見開きの写真は人間っぽく見えて結構不気味だなあ。もっというと、人間というよりもお面っぽい感じがするけど。
 それと口絵がカラーであって、また最後の章での実際に去年のダイオウイカを撮った調査、撮影での写真がカラーで載っているのは良かった。
 冒頭のプロローグでダイオウイカが目の前に姿を現したところからはじまるが、そこでは専門家である窪寺さんが興奮しているのを見てそれがいかにすごいことだったのかわかるし、また専門家が情熱を注いだプロジェクトが成功裏に終わる、それ以前はどういう道のりがあったのかという想像をたくましくさせ(10年もの歳月をかけたようだし!)、一層興味がそそられるいい始まり方だ。
 しかしまあ、NHK取材班が書いた本だから仕方ないかもしれないけど、彼らの話が多くて、期待していたよりも科学者などの話の比重は低かったかな。
 あとマッコウクジラは『脳油器官で音を操り、ビームのようにピンポイントで獲物に向けて発射し、しびれさせたところを食べる』というのは知らなかったが、面白いな。
 少し前までサメがいたところにダイオウイカの残骸があるが、それだけをとっても大きさがわからないからといって、ロケに協力してくれていた森さんに泳いで回収してもらったというのはちょっと引くわ。まあ、そう提案した人が自分も水中から撮影しているからまだいいけど、そうでなければステレオタイプとして描かれるいい画を撮るために色々勝手な要求をするテレビマンそのままの姿だ。
 窪寺が科学研究費をもらえなくなったという事態が起こったときに、『研究費が途絶えた窪寺の深海性イカ調査は、あわや転覆しかかっていた。イカ・タコ類の権威である窪寺から研究を取り上げたら、イカ・タコ好きのただのおじさんになってしまう。』(P59-60)「ただのおじさん」という表現には思わず笑った。
 小山は何度も何度も船に乗っているのに、船酔いがひどくするのにそれでも船に乗ってダイオウイカ発見に力を尽くしている執念、情熱はすごいな!
 データロガーという一定感覚で写真を撮る装置を使って、生きているダイオウイカの写真を幸運にも世界ではじめて撮れたことが、ダイオウイカの調査がサイエンスだと認められ、今まで申請しては却下されてきた海洋研究開発機構JAMSTEC)の調査船に乗れることになれたり、そのことで窪寺が論文を書きそのことが世界中に報じられ、その反響の大きさから日本のメディアも取り上げた、そうしてこの写真は彼らにとって大きく段階が上がった節目となる出来事となった。
 イカ類は海水より重いためそのままでは沈んでしまい、そのためスルメイカなどは『とにかく高い遊泳力で、沈むより早く、泳ぐことで、生息環境の水深に留まっている』というのは知らなかった、そうした説明聞くとなんだか忙しないように思えちょっと笑えてくるね。しかしダイオウイカアンモニウムイオンを蓄えることで体を浮き袋のようにしている、そのせいで独特のにおいがして美味しくないということだが、深海にいるダイオウイカの方がそうした浮き袋のような体を持つというのはちょっと面白いな。まあ、大きさの違いというのもあるのだろうが。
 そして二番目の大きな節目としてダイオウイカが釣れて、生きたダイオウイカの映像が撮影できたというのがあるが、こうして段階を経てどんどんダイオウイカに迫っていっているというのはいいね。
 ダイオウイカの番組提案が日本では通らないから、国際共同制作にしたというのがあって、そういう経緯でディスカバリーとかと共同制作となっていたのか。
 今回の話とは直接的に関係はないが、イカの飼育は難しいもので、日本の松本博士が1970年代にそれをはじめて成功させたというのが、松本博士はイカなどが専門でなく、イカ神経細胞を神経生理学の実験に使うためにそれを成功させたというのが面白いな。そして「ソロモンの指環」で有名なノーベル賞受賞者ローレンツが松本のイカ飼育を見るために、わざわざ日本に来て1週間滞在したという逸話もそのすごさを物語るな。
 6章の最後で海外から研究者たちが集ったという終わりで、いよいよ本番だと感じさせてくれ、また7章はいよいよ本番の調査なので、楽しく読めた。そして7章では海外の様々な研究者のアプローチについても書かれてあり、それもまた面白かった。しかし電気クラゲ(Eジェリー)の効果は抜群だな。
 しかし最後、ダイオウイカをあんなに間近でしかも色まで鮮明に撮影したことについての色々な反応についてもうちょっとページが割かれていたらもっと嬉しかったかな。