アリソン

アリソン (電撃文庫)

アリソン (電撃文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

巨大な大陸が一つだけある世界―その大陸は二つの連邦に分けられていて長い間、戦争を繰り返していた。その東側の連邦に暮らす、学生ヴィルと軍人アリソンは、二人とも17歳。ある日ヴィルは、アリソンと一緒に街外れまで行き、そこでホラ吹きで有名な老人と出会う。その老人は二人に“宝”の話をする。『戦争を終わらせることができる、それだけの価値がある宝』―。しかし、二人の目の前でその老人は誘拐されてしまう。そして…。「キノの旅」の時雨沢恵一&黒星紅白が贈る新作長編!胸躍るアドベンチャー・ストーリーの幕が今上がる。


 「一つの大陸の物語」を読み終えてから、読み直したいという気持ちが湧き上がってきたので、かなり久しぶりに再読。
 久しぶりに読んだけど「アリソン」は1巻だけでまとまっているし、展開を知っていても楽しませてくれるスピーディーな展開でワクワクするような場面が続くのでやっぱり面白いなあ。そして大団円で終わるので読後感もいいし、完成度の高い良作だなあとしみじみと感じる。
 この物語の世界は現実の世界で言えば第一次世界大戦と第二次大戦の間くらいの欧米といったくらいの発展度。「アリソン」は冒険活劇といった感じだけど、世界観はしっかりしているから読んでいても安心感があるよ。また個人的にはそのあたりの時代の生活には興味があるので「メグとセロン」は面白かったな。
 しかし大富豪のテロル氏というのは初読時には名前だからただの音として捉えていて意味を考えていなかったから気にしていなかったけど、名前からして怪しいと思ったらほぼ黒だと断言してもさしつかえないようなネーミングだな(笑)。
 アリソンとヴィルが河向こうに不時着したときに、死んだ息子たちの制服まで貸してくれ、助けてくれたおばさんがトラヴァスさんで、後に彼女の養子にヴィルがなる。しばしばトラヴァスさんが誰だったのか忘れることが多かったが、「一つの大陸の物語」とこれを読んだから流石にもう覚えたぞ。
 ベッドを共にすることを持ちかけられて、恥ずかしがっているアリソンのイラストは色っぽいな。こうしたヒロインと初めから安定・円熟した恋人関係にあるというライトノベルは好きだなあ。こういう関係の方が、ツンデレキャラとかがヒロインで最初につんけんするような関係から入るよりも、物語に入りやすい気がするのだが、いまいちこういう話は多くないなあ。その分ヒロインが最初から固定化して、読者に受けるかが読めず、本来のヒロイン(予定)から途中で人気のヒロイン候補が恋人になるという方向修正ができないというデメリットもあるけど、そのデメリットは純粋なラブコメだと思うしなあ。大概は普通の物語は、最初からヒロイン役は決まっているもんだし。
 しかし異なる言語で会話して監視人の目を誤魔化したが、爺さんがベゼル語も理解できたという幸運だったな。といっても案内している「ルネ」軍曹も実はロクシェ語を使えたようなので、彼が小心者であったということもアリソンとヴィルにとって大きな幸運だったな。
 川の流れにあわせて飛行機を細かく操縦することを、アリソンもベネディクトもなかなか苦労しているが、互いに相手の機体を見てなんて簡単そうに操縦しているのだと感嘆しているのは面白い。しかし2人とも操縦に神経を使いつつも、まったく不安定さのない操縦をしていることにご両人の技術の高さが感じられる。
 最後に「宝物」を発見したシーンは、こうした遺跡発掘めいたロマンを感じさせる場面って結構好きなんだ。しかし人類発祥の地でないにしろ、2大文化発祥の地が戦争のせいで緩衝地帯になって無人になっているというのは少し切ないね。
 全てを明らかにしたことで訪れたご都合主義的かもしれないけどハッピーエンドは、この「宝物」がまぎれもなく全人類にとっての宝だったことがその結果で証明されているから、なんだか嬉しくなるな。