IT 3

IT〈3〉 (文春文庫)

IT〈3〉 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

精神病院のベッドで、男がむっくり身を起こし、月からの邪悪な声に耳を傾ける。町に戻った〈はみだしクラブ〉の面々を迎えたのは、チャイニーズ・レストランの怪、夜の図書館に出現したピエロ、などだった。いまデリーでは、あらゆる狂気が目をさました。それに対抗するには、みんなの記憶を繋ぎあわせ、ひとつの力とすることだ。


 中だるみもなく面白い。この本は面白いし、リーダビリティーが高くスイスイと読めるので、自分としては結構速いペースで読み進められている。複数冊あるものは1冊読んだら次を読むのに2、3週間くらい間が空くことが多いのだけど、この小説では1週間も間を空けず読んでいるもの。そして、これでもうあと1冊だ。ラストの次巻を読むのが楽しみ。
 前回、子供時代まだあるか不安とか感想に書いていたけど、今回目次見て第四部が58年の話だと書いてあるのを見て、目次ページちゃんと見てれば、全巻の目次があるのだからわかるはずなのに気づかなかったというのは不注意だったな。目次あまり見ないからなあ。まあ、今回の目次でも1巻分の目次を見ると、第一章が本来一九五七のはずが、一九七五になっている(2008年8月3刷ver)のを見るに、あまり目次を注視していないのは私だけでもなさそうだが(笑)。しかしキングという有名作家の小説な上、こんなにも面白いのに3刷しかしていないってどういうことなの! 初版が多く刷られたとかならいいけど、読まれていないなら寂しいな。まあ、この本読むまでホラーに苦手意識があってキングのホラー小説を読んでこなかった人間がいうことではないけど(笑)。
 冒頭、かつての悪童ヘンリー・バワーズが冤罪によって刑務所に入れられていることが判明する。その時は流石にちょっと、ほんのちょっとだけ同情しなくもなかったけど、その後の子供時代の行いをみるに、既にかなりイカレているからそんな思いは感じられないわ。今回でヘンリーが想像以上にイカレていることが判明する。
 それに奴はItにそそのかされて、脱獄してきて、集ったはみだしクラブの面々の邪魔をしてくる展開になっているしね。
 そのヘンリー・バワーズに加えて、Itとは関係ないのに、ベヴァリーの夫がかなり狂気に陥りながら、ベヴァリー追跡してきて脅威になりそうな展開になっているが、全く怪物(It)の物語と関係してないのに狂気になって邪魔をする厄介な野郎があらわれようとはな。
 まあ、でもこれで物語が終われば、彼女も夫婦関係をご破算に出来て新たな出発ができて、物語が終わった後の懸案もなくなるからそれもそれで悪くないけど。まあ、怪物と対峙するに当たっては余計な邪魔もはなはだしいことにはかわりないが。
 たぶん、ベン・ハンスコムが彼女を守り、彼女と結ばれる的な展開になるのだろうな。そうなったら嬉しいから、そうなって欲しいな。
 今回は、過去パートがかなり多くて大変嬉しい。今回はヘンリーたちとの石合戦、化物との最初の対決など、戦っているシーンが多くて、普通の子供たちの夏の情景みたいなものはあまりなかったのはちょっと寂しかったかな。だけど、そうした敵に相対しているという事情もあり、仲間たちの団結が一層増すして行く。そして化物相手にも、ヘンリーという狂者相手にも、大人を頼りに出来ず、自分たちで立ち向かわなければならないため、強い意志を持つようになっていく。
 「第三の間奏」過去の町のエピソード、何人もの男が悪党どもをマンハント、例のピエロ(ペニーワイズ)の狂気に操られてだか誘導されての行いということのようだ道化に操られて道化になるとはちょっと皮肉だが、あの怪物、直接手を下さなくともそんなこともできるとは知れば知るほど厄介極まりない相手だ。
 怪物の正体、人が恐れているものの形をかたどれる怪物、世界各地で呼び名は異なるが、そうした類の化物のようだ。それがわかったところで情況が好転したわけではないが、なんとなくアンノウン(正体不明)よりも、そうした名前があると落ち着く。「レベルE」の野球部部長のような概念があるとわかれば落ち着くみたいな心理があれほど極端でないにしろ、だれしもあるでしょう。そうしたのがあってそう感じる。
 そしてついに過去パートでマイケル・ハンロンがはみだしクラブの面々と関わって、彼らのメンバーとなる。ついに彼らは全員そろった。
 ハンロン、ヘンリーら悪童連中に追われているうちにはみだしクラブがいる場所にやってきて、はみ出しクラブの面々を見たハンロン助けを求める。その前から、音が聞こえていて応戦を既に決意していた彼らは、ヘンリーたち相手に石を武器にして戦い勝利する。しかし石合戦、かなり過激で危ないものなんだということを理解する。昔の戦闘(鎌倉高室町だか)に飛礫を放つ部隊がいたというのも納得だ。
 その後、自然とハンロンは仲間に加わる。運命のように。そして「これで全員集まった」と感じたようだ。
 怪物、「外」から来て、人間がこの地に現れる以前からここにいる存在、徐々にやつの招待が明らかになる。
 あと物語とは関係ないが『デリーには雨一粒も降らなかった。だが湿気は残り、人々はその番ポーチや芝生や、裏の畑に寝袋を持ち出して寝た。』(P336)とあるけど、それってどういう習慣なの。人々がやっているのだからそれがいい心地と感じているというのだけはわかるけどさ。
 パトリック・ホックステッター、ヘンリーの仲間になった早々にItに殺されたが、はみだしクラブの面々が結構逃げ出せていたから感覚が少し麻痺していたが、本来こんな風に逃げる余地もなく捕まえられてあっという間に死ぬのがこの化物なんだよなあ、と脅威を改めて認識するとともに、なんで化物も脅威に感じているはみだしクラブの面々を片付けるのにその手を使わないのかがわからないな。はみ出しクラブの面々が集っていくのに彼ら自身運命を感じているから、特別な存在とかなにかしら意味があるから化物はそういう手段をとることができないのかな。うーんわからないな。いや、まあそこまで真剣に考えているわけでもないのだけどさ。
 しかし「ペニーワイズ」というピエロ、化物の名前はてっきりはみだしクラブがつけた符丁かと思っていたが、化物自身が自称していたものだったのか。
 エディ、子供時代の記憶を忘れていたせいで、かつて母に反抗して我を通して精神的に成長できた、母の呪縛から解放するための力となったであろう記憶を忘れてしまったというのはちょっと悲痛なものを感じる。
 化物につけられた傷、大人たちには見えないようだ。
 子供たちは化物を倒そうとあいつの拠点に踏み入る。自分たちの脅威となっている化物と戦えるのは自分たちしかいないから。それはそうだけど、どうしても心細さを感じてしまい化物と対峙し、退治してくれる大人がいればという思いがわきでてくる。
 第一の化物との対決。射撃手となったベヴァリーがパチンコで、銀のバラ弾を用いて、大きな傷を負わせるもヤツのホームである下水を伝って逃げられる。
 3巻の最後のほうで「でもあいつもおれたちを怖がってる。ほんといって、あいつはだいぶ怖がってると思うな」(P439)とマイクがいい、ビルも同意したように、それまでもそうじゃないかと思っていつつも主人公補正か、化物の行動には実はかなりの制限があるのかともちょっと思っていたので、実際に化物が怖れているということが書かれると、やっぱりそうだったんだとすっきり。
 「狼男だ」ということで、仲間の誰もがItの姿をそうしたものとしてはっきり認識する。こいつの恐ろしいところは認識を狂わせたり、相手が恐れている色々な姿に見せるところだが、皆の目の前にいても見えているものが違うなんてこともありえるのか、それともそうしないと正確な姿が定まらずぼやけていて厄介な相手となるのか知らないが、面倒な相手だということは確かすぎるほど確かだ。
 化物に痛撃を与えた銀の弾、7人が全く疑い持たずに、必ず効力があると信じていたからこそ大きな威力を発揮したみたいだ。