永遠の曠野 芙蓉千里IV

内容(「BOOK」データベースより)

第1次世界大戦の余波がつづく激動の時代。大陸はいまだ揺れに揺れていた。舞姫の地位を捨て胡子(馬賊)となったフミは、一味の頭領である楊建明のモンゴル独立にかける思いを知り、改めて、どこまでも彼についてゆく覚悟を決める。しかし建明の決意の奥底に、彼の亡き妻サラントヤの影を見てしまい…。しなやかにそして強かに、ひとつの時代を駆け抜けたフミが、最後にその手を掴んだものとは?万感胸に迫る、堂々の完結巻!

 シリーズ最終巻。ついにこのシリーズも全部読了、1巻から2巻を読むまでにはちいと時間がかかったけど、フミが曠野の世界に飛び出して以降はあまり間をおかずに読み薦められたかな。今回は前編国家規模で話が展開して、そこで策略練って実行したりと最終巻らしくスケールが大きいな。
 この巻は冒頭からいきなり盛り上がる追跡シーンからはじまっているのはいいね。白軍最後の大物のセミョーノフと思い追跡するも違ったが、敵の幹部級を捕獲。
 普段のフミとショールガの、戦闘時の動きは敵をかき回すような形というのは、覚醒して、銃撃でガンガンやっているとされるよりも納得感があっていいね。そして彼女も戦闘を何度も経験したということもあって、もう死体に慣れてしまったようだ。
 セミョーノフは飛行機で包囲網から逃れるも、それで勇猛な騎兵としての求心力、兵を集める源であったものを失った。
 緩衝国家と目されているが、それを身のある本物の国家にしようとしている極東共和国大統領クラスシチョーコフ。
 中華民国と共和国は停戦を結んでいるため、その領域にいるウンゲルンを追えない。そこで建明は一旦苦戦している白軍のウンゲルンと合流・協力して、ハルハを占領している中華民国を追い払い、しかるのちウンゲルンを追い落とすことを提案し、クラスシチョーコフ大統領はそのときに共和国軍が動くことを約束をする。モンゴル解放を目的とする建明と、白軍勢力打破を目的とする共和国側の利害一致。
 建明はかつてウンゲルンのもとにいたから、その残忍さを知っていて、また彼と反目して別れたのだから危険なのはわかっているが、大胆不敵に敵である彼の胸中に飛び込むような策をとることを決める。
 かなりリスキーな策だが、当家である建明が決めた方針に何も異議をとなえず決めたのならばついていくとする仲間たち。こうした強力な絆が描かれた作品は、あまり読んだことないから、ちょっとそうしたものに興味がわいたので、そうしたものが描かれた小説をもっと読みたいな。武侠小説とか、三国志の時代が舞台の小説とか読めばそういうのが見れるかな。
 モンゴルの活仏から金塊を渡されたのだから、モンゴルのために用いようという意識が強くあったことで、そうした方針を採ることに。
 ウンゲルンから害されないようにモンゴルの実力者トゥルム、かつての建明の恋人(で、建明との方針のズレで対立し、それでも彼を愛し、自ら彼に殺された)サラントヤの兄を味方につけるのが、まず必要だが、その第一歩目でウンゲルンと対面していないその段階から既に建明が捕らえられたことなどからも、この作戦がかなり博打的なものであることがわかる。しかしその山っ気も、またアウトローっぽくていいね。こういう風に、スケール感大きく命を惜しむことをしない爽快感あるアウトローたちだから、馬賊って昔の日本の青年たちに魅力的に映ったのかな、なんて思ったり。
 モンゴルのために戦うにしても、機が熟するまで冷静に待ち、その時まで力を矯めようとうとする建明と、現在圧政に苦しむ者を無視して行動を起こさないことはできなかったサラントヤ。結局サラントヤはその自分の信念と彼への愛との矛盾、彼もまた正しいことはわかっていたことから、急進派をまとめて率いて反旗を翻し、あえて敗れ死亡した、彼への愛。たしかにそんな人相手では流石のフミもかなわんな。
 試され、そのためしに彼らは合格して(つまり烏合の衆でなく、一個のまとまり、裏切りをしないしっかりとした部隊だと認められ)、トゥルムの助力を得ることに成功するけど、妹の件についてはそんなに何か恨みに思うようなところはなかったのね。
 ベリーエフと黒谷、そしてロシア語を勉強する学生たちによる、ハルビンで過ごす正月のシーンはなんか微笑ましくていいな。そして黒谷はフミが誰にも利用されずに無心で舞える日が来る、そんなように世界を整えるという大目標をたて、フミと添い遂げることはもうあきらめたようだ。
 ハルハ、ハーンを確保して、彼が中華民国軍に閉じ込められていたから動きが制限されていたモンゴル人たちも一気に味方して反撃に移り、一気に形勢逆転し、中華民国軍を追い返す。
 完璧にハルハから中華民国軍を追い出したら、ウンゲルンはマッド・バロン(狂男爵)の本性を現し、過激な粛清を開始する。
 炎林、自立するために一段落したら、建明から離れ一人で歩むことを決心する。
 セミョーノフを日本軍が支援し、なんとかこの出兵から何かを最後に得ようと頑張っていた政務部の努力が無に帰す。何もつかめぬまま変えれないという思いは同じだが、既に軍によってつかめる見込みはきわめて薄いというのに……。
 ウンゲルンらと共和国軍らの対峙、建明と彼に説得された多くの部隊が離反して、共和国軍らと挟み撃ちにできる形を作り、ついに当初の計画が完遂するも、大統領が倒れ、彼への嫌がらせとして共和国軍が行動を遅らせた結果、一挙に死地に変わるも、あくまでも奮戦し、弾を撃ちつくした後、前時代的な一騎打ちによりウンゲルンの首級を上げるも、あえなく建明の部隊は全滅する。しかしこうした絶望的なシーンでの奮戦、それでもまだ意気盛んで、彼らの肝の座っているのは、格好いいねえ。こういうの好きだわ。そしてウンゲルンとの決戦で、建明が「20世紀だぜ」と笑っているのも好き。
 後に残ったのは、炎林とフミだけ。フミは建明の今際に立ち会い、そこでもうこないことを互いに知りながら「今度」の話をしているのは、互いの相手を思いやる気持ちがでていて、見ていて切なくなる。
 フミは建明の死後、意気消沈で生きる気力もなくなっているような状態だったが、炎林とぶつかりあいつつも、二人きりとなった、そして彼を愛したもの通し孤独を埋めあった。そしてようやく生きる気力をとりもどす。また、そのとき子供を授かるも、はじめて一人で歩もうとしている炎林には話さず一人で育てる。
 ただ、炎林も黒谷にフミを託し、それと同時に自分が投降して犠牲になり、フミに危害が及ばぬようにしようとするという考えを実行しようとするなど、そうとう彼の死に参っていることが分かる。それを黒谷は一笑し、彼女は人に飼われるようなら死ぬことを選ぶ女だといって、その申し出を断る。
 その後、黒谷が炎林につれてきてもらって、フミとの再会を果たし、ようやく正式に互いのことにけりがつく、また同時に互いの友情を確かめ、結びなおすことにもなった。
 終章、20年近く時間が飛び、第二次大戦に入ったくらいの時期にその間の過去と現在げ語られて、話が終わる。炎林が7年後に、フミが自分の子を生んでいた子を知り彼女の元にやってきたエピソード、初めての父娘の交流は、まだ父と明かしてない状態だけど、娘が彼にはしゃいでじゃれついている姿は微笑ましい。
 炎林は独自に胡子を作り、建明の夢を追うことに決めたようだ。そして、7年ぶりの対面の時、彼女が世話になった政治家の失脚で、彼女も危うい立場におかれたことも知らせて、フミと娘は街から出て炎林とともに暮らすことになる。その後フミは炎林との間にさらに息子ももうけた。現在フミは炎林の頼みもあって、ハルビンで店を経営しながら、情報収集などをしている。時代的に、そして満州国という場所的に、そのまま平穏に行くことはないだろうから、彼女がその後どうなったのか気になる。
 まあ、今後どうなるかわからないけど、とりあえず物語は幸せな現在を迎えられて本当に良かったのだが、その後が戦争だから彼女らが今後どうなるのか全く読めない。でもこれまでものりきってきたんだから大丈夫かもという信頼感もあるから、激動の時代でも彼女ならを乗り切ってくれるでしょうと思うことができる。
 ただ、あとがきで『フミの中年期細腕繁盛記も書いてみたかった。』(P363)なんて書かれると、読んでみたかったと読めないことへの残念な気持ちがわいてきてしまう。
 そしてなるほど、大河少女漫画ね。なんというか、大河=大河ドラマのことがまず連想され、小説に大河と言うのは違うのかなと思っていたけど、ググってみたら大河小説という表現がちゃんとあるのね。いままで時代小説というには時代が違うし、歴史小説というにはフィクション度合いが高い小説をどっちに含めればよいのか迷うことが結構あったのだが、今後、大河小説といえばよいとわかってなんかすっきり(笑)。