異世界食堂 1

内容(「BOOK」データベースより)

オフィス街に程近い商店街の一角、犬の看板が目印の雑居ビルの地下1階にその店はある。猫の絵が描かれた扉の食堂「洋食のねこや」。洋食屋といいながら、洋食以外のメニューも豊富なことが特徴といえば特徴のごく普通の食堂だ。しかし、「ある世界」の人たちにとっては、特別でオンリーワンな一軒に変わる。「ねこや」には一つの秘密がある。毎週土曜日の店休日、「ねこや」は“特別な客”で溢れ返るのだ。「土曜日の客たち」=「ある世界の人たち」にとっては見たことも聞いたこともない料理ばかり。特別な絶品料理を出す「ねこや」は、「ある世界」の人たちからこう呼ばれている―「異世界食堂」。そして今週もまた、チリンチリンと鈴の音が響く。

 web小説の書籍化。巻末に特別編として「豚の角煮」という短編が書き下ろされている。web版では読んでいるので、実質再読。web版では話がちょっとパターン化が進みマンネリ気味になってしてしまったし、また毎回違う料理を主題にしているから、ねこやがもはや何の店かわからんほど多彩な料理出す店となってしまって偏見かもしれないがそんな多くの料理出す店はなんかさほど料理おいしくなさそうに感じるので、あまりおいしそうと純粋に思えないようになったということもあって、個人的なこの作品に対する熱狂期を過ぎてしまったから読もうか少し迷っていたけど、文庫だし少なくとも序盤は面白く読んでいたんだからと思って購入。
 七日に一度、土曜日だけ異世界と通じる現代日本洋食店ねこや。7日に一度、異世界の様々な場所にこの店と通じるドアが出現して、それを通ってきた異世界のさまざまなお客さんの視点で(初めて来た人だったり、常連の客だったり様々)、一話ごとに異なる料理をネタにして、異なるキャラの視点で書かれる。身近な現代地球の料理に驚いたりおいしいとリアクションしてくれるのが楽しい短編集。
 30年前、先代である現店主の祖父の時代から異世界とのつながりはじまる。店主も長くそうした店に先代のもとで勤め、そして店主としても長くやっているから、異世界の変なところに扉があってそこをくぐってきた人の警戒したような対応、店主自身に危険が及びかねないシチュエーションが今回も今後もままあるけど、もうそうしたの慣れっこになっているのかこなれた対応。
 こうして改めて最初のほうの短編を読み返すと面白いな。「カレーライス」7日ごとにねこやに来るのを楽しみに何年も漂流生活を過ごしていたアルフォンスの話や、「ハンバーガー」の毎週小遣いを集めて枯れた井戸の底にでてくるねこやにやってきてハンバーガーやコーラを頼む子供たちの話は元から好きだったけど、小人たちが100人くらいできて自分たちの身体に比べて大きなホットケーキを食べる話である「ホットケーキ」なんかはお祭りのように皆で切り分けられた大きなホットケーキの塊を大口をあげてぱくついている姿を想像すると非常にほほえましい感じだし美味しそう、今回改めて読みなおしたことで好きになったな。
 第一話「メンチカツ」伝説のトレジャーハンターであるウィリアム、晩年の日記にドヨウの日に毎度のようにねこやに行っていて、身体が利かなくなって行けなくなってからもねこやいけないことが悔しい的な記述あるほど、好きだったという話はなんかいいな、好きだな。
 「お好み焼き」海国と山国の互いに対抗心を持つ二つの国の二人がこの店で互いに情報交換しているとか、こういう話、面白いよね。毎度、シーフードの/豚玉のお好み焼きが最高だといいつつも、情報交換しながら食べていると互いのものを食べたくなってそれぞれお変わりで、相手が食べていたものを注文するのが定番ということや、不仲なようにみえても、心の底ではこの関係を好ましく思っているようなのもほほえましくていいな。
 しかし挿絵、モンスターか女性ばかりで男キャラが少ないのお。まあ、カラーではエビフライの人と、カレーのウィリアム(と後姿の店主)がいるから、それほど少ないというわけではないのかもしれないけど。でも、タツゴロウ(テリヤキ)とか山国、海国の二人の絵とか見たかったなあ。
 異世界食堂では言語が通じるような魔法がかかっているようだけど、それについて触れたのはリザードマンだけだから、あちらの世界は人間・亜人間の間では言語統一されている設定なのか、そうでないのかちょっとだけ気になる。
 「パウンドケーキ」P187の挿絵の男性陣、彼女がパウンドケーキを振舞った弟子たちはP203で「弟子たちの少女3人」と書いているので女性だろうから、一体誰なんだろうか??
 特別編「豚の角煮」の冒頭で、普段見ることのないこっちの世界でのねこやのお客さんの反応がちらりとでも見ることができるのは新味があって良かった。
 先代の料理だが、店を継いだあと自信なくて(それに本職の洋食ではないしで)出していなかったが、20年前に食べた異世界人の老人からの要望を受けて復活し、こっちの世界でも要望を出した異世界人からも好評だったというのはなんか思わず頬が緩むような話だ。
 しかしこの巻の最後でアレッタが給仕として入る前は、店主一人でドヨウの店をやっていたというのことだから、一定以上の客入りがあるのに一人で給仕・調理・掃除を一日中休みなくやっていたのかと思うと大変というか、よくやっていたなというレベル。