人類が知っていることすべての短い歴史 下

人類が知っていることすべての短い歴史(下) (新潮文庫)

人類が知っていることすべての短い歴史(下) (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

ちょうどいい大きさの太陽、地球を甘やかしてくれる月、原子社会のセックスアニマル炭素、防護用コンクリートほどに頼もしい大気、そして無尽蔵のマグマ―。地球万歳!ここは生物のパラダイスだ!イギリス屈指のユーモア・コラムニストが徹底的に調べて書いた、最高のサイエンス・エンターテイメント。イギリス王立協会科学図書賞受賞、読めば文系のあなたも「科学通」に。

 上巻は宇宙とか地球についてが主だったが、下巻は生物についてが主に語られる。生物の進化の歴史だったり、人類の進化の歴史についてわかっていることとわかっていないこと。この本を読んで、思っていたよりもずっと人類が知らない、わかっていないものというのは多いということを実感する。
 現在地球上に存在している生物の種類、深海に限らず、地上のさまざまな動植物、菌類・微生物について、いまだ存在が未知のものがかなりある。また生態がわかっていないものも相当多い。そして、その分野の専門家が引退・死亡すると、当該分野の研究が「非常に長期にわたって」ストップすることも珍しくないということにはちょっとびっくり。
 水は実質的に圧縮付加なので、水圧に圧縮されるのは体内の気体、特に肺の中の気体。
 また大半の液体は、冷やすと約10パーセント収縮する。水もある時点までは同じだが、凍る直前から膨張し始めて、固体になったときは1割容積が増えている。その『ジョン・グリビンに言わせると、「奇妙きわまりない特性」』(P69)がなければ、氷は沈んでいき、そうすると湖面・海面の熱が発散して、水温は下がり多くの氷を作り出す循環が出来て、海洋まで凍ってしまい、生命を育む環境とは程遠かっただろう。こういう身近な物質が奇妙という話を聞くのは、何か面白いよね。
 深海調査船、半世紀前のものが一番深く潜れるものだというのはちょっと驚き。費用が掛かりすぎるから、そういったものがあまり作られていないとはいってもね。深海平原までたどり着ける調査船、アメリカでも5隻しかないというのはちょっとびっくり。一日動かすのに2万5000ドルかかり、利益が見込めるようなものでもないから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけれど。
 竜涎香、クジラに食われた大王イカの未消化部分。
 現代の漁業技術が発達したということもあるだろうが、数十年とか百年とかで『魚の切り身やスティックは昔は鱈だったが、それがハドックに、次いで赤魚に、近年になって太平洋セイスに取って代わられた。』(P94)というのを見ると、漁業資源が枯渇するのって放っておけばそんなに早く枯渇してしまうのかと驚かされる。
 1989年グールド「ワンダフル・ライフ」発売、多くの科学者はグールドの結論に全く同意示さず。彼が攻撃する、人類に向けて一直線に進化という見解は既に50年前に廃れたもの。カンブリア紀、現代の進化と別種の進化のプロセスで、この時期進化の実験的時代で現代の進化はこの頃作られた古いボディーラインの応用というグールドの結論に怒り、大木を見ながらこのごろ大枝生えず、小枝くらいしか新しく生えてこないと言っているようなものと述べる。
 ハルキゲニア、上下さかさまに復元されていて、竹馬のような足でなく、背中のとげだったことが判明。パイナップルの輪切りのような生き物、実際はアノマロカリスというもっと大きな生き物の一部。バージェス化石、現在では多くが現存する門に割り振られている。『実際、フォーティは次のように述べている。「カンブリア紀のデザインには、完全に目新しいものは比較的少数しか存在しません。大概のデザインは、すでに定着したものに興味深い装飾を加えたにすぎないとはんめいしています」』(P180)。興味深さ奇妙さはあっても、全く新しいものではない。
 「ワンダフル・ライフ」長らく積んでいて、そろそろ読まないとと思っていたのだが、そういう話を聞くと何か一気に読書意欲が低くなってしまうな。まあ、四半世紀前の科学の本だから現在から見ると水準があれなのは仕方ないけどさあ。また、「イヴと七人の娘たち」も積んでいるのだが、それについてもその説は眉唾で、一つの遺伝子のみに基づいたデータでは何も断定できないし、標本には現代人のDNAが大量に付着していたはず。なぜならそうした汚れから守るためには無菌状態で発掘がなされ、その場で標本分析を実地しなければならず、そうした汚れから標本を守るのは至難の業だから。こうして積んでいる科学の本のそうした話を聞くと読む意欲減るけど、読まないで置いておくのも居心地悪く、それを聞いた後ではあまり楽しめなさそうだから、なんかどうすればいいのだろうかと悩んでしまうな。
 今まで地球上に誕生してきた複雑な生命体の種の平均寿命約400万年で、それは人類が生きてきた年月と相当。
 恐竜絶滅時、隕石衝突時の長い冬どうやって珊瑚が乗り切ったか、ニュージーランドほぼ無傷で大部分の生物が生き残ったのかなど、不可解な説明つかないことが多い。
 苔と地衣類、両者全く別の種類。後者は菌類で植物でない。両者の区別したなかったからちょっと、いやだいぶ驚きだ。
 植物学者カール・リンネ、自らの偉大さに酔いしれ、余暇を自らの偉大さについての長文を書くことに費やす。その自己評価に疑問をさしはさんだ人間には、雑草をその人の名前にちなんで命名したというのは思わず笑ってしまう。
 高性能な顕微鏡を作った科学者レーウェンフック。画家フェルメールと親友で、フェルメールにカメラ・オブスクラをプレゼントして、それを使ってフェルメールは絵を描いたのではないかと推測される。遺産目録にそうしたものなかったけど、レーウェンフックはフェルメールの遺産管理人となっていて、彼は秘密主義者だったので可能性は残る。注で書かれている、このコネタ的な話は面白いね。
 海綿動物、ふるいにかけてばらばらにしてから溶液に放り込むと身体を元通り組み立てて、元の海面動物の姿に戻る。
 メンデル、幸運にも遺伝形質に気づいた修道士というわけではなく、彼は訓練を受けた科学者で助手を使って多くの豆の木を使って実験して得られた成果。また、その成果は完全に忘れられたわけではなく『ブリタニア大百科事典』で非常に好意的に紹介され、あるドイツの科学者の重要な論文でも繰り返し引用されているなど、その着想が完全に埋没してしまうということはなかった。
 ルーシー、一番古い先祖として有名だったが実際には人類の直接の先祖かと言うと怪しい。
 人類の化石、トラック一台に詰め込める領で年代的に何十万年と空いたものが多いため、まだ不明な部分がかなり多い。
 オーストラリアに放射性炭素年代測定法による測定で2万3000年前、6万年前の人骨が見つかる。