神様の値段 戦力外捜査官2

内容(「BOOK」データベースより)

新興宗教団体「宇宙神瞠会」が極秘裏にすすめている“ハルマゲドン”計画。ある日、大学進学のために上京していた妹の未来を訪ねた設楽は、妹が知らぬ間に教団信者になっていたと知り愕然とする。必死の説得も届かず、教団にのめり込む未来。妹を人質にとられた設楽と海月は、最悪の無差別テロを阻止し、未来を救うことができるのか!?


 シリーズ2冊目。
 初めに主人公たちが追っていたほうか事件が、カルト宗教団体宇宙神瞠会に関わっていると設楽をつけていた公安の人たちに聞かされる。そしてその時に彼が付けられていた理由が設楽刑事の妹未来がそのカルトに入っていたことによることも知らされる。そして彼女をカルトから救出することと、宇宙神瞠会がテロ行為を目的としているのではないかと思われる動きをしている。そのため設楽刑事の妹を助け、その事件を未然に阻止しようと動く主人公コンビを描いている。
 今回は明確な敵(組織)が最初からわかっているし、最初の放火事件も海月・設楽コンビをこの事件に関わらせるため、そしてカルトの怖さを書くためにその人物を必要としたという感じ。そのため今回は謎解きをするようなミステリーではなく、刑事小説やスリラーといった感じの作品だな。
 冒頭に登場人物ページがあるのはちょっと嬉しいな。
 プロローグ、それぞれの場所でのちょっとしたいい仕事をするための心持が、後に人の命を救ったということが書き連ねられ、そして救われた人の人数の多さがだんだん大きくなってくるので、この本の中で起こる事件がかなりの規模だということがわかり、どんな事件になるのだろうという興味を持たせ、そして設楽・海月がどんな活躍をするのだろうかという期待させるものとなっていいね。
 カルト内部の内通者である笹川が密告していることがばれそうになって危うく消されかけるというシーンは緊張感あるなあ。
 そして設楽・海月が実行部隊として秘密裏に少数でこのカルト宗教の件を追っているのは、放火犯の事件で捜査している中に密告者がいることがわかったから、そこから調査していることがばれないように主人公コンビと公安で調査しているということなのね。
 海月はドジっ子的キャラではなく、良家の出でちょっと常人とは感覚が少しずれていて運動神経はないけど、非常に頭がキレ、友人の助手役の私的事情(道場に予定期日以上に篭っている妹を助けるため)にも協力するけどその他にも本来の任務(その教団内部の怪しげな爆発物などを作っている証拠を見つけられないかなど調べること)もするという抜け目なさというかちゃっかりさもあるという人物で、外見に惑わされずに見ればそうした要素要素は、普通に探偵役の特徴として王道というかそういう特徴あってもなるほどと思えるようなもののように思う。例えば普通に外見忘れてそういう特徴の男の探偵キャラがいると想像してみれば、探偵らしいという感じがしないかな。
 教団に潜入したがその目論見がばれて捕らえられそうになるも、かなり危うい橋を渡ったが何とか脱出することに成功す。
 しかしカルト宗教に妹がはまって、話が平行線で通じなくなってしまうその恐ろしさや気味の悪さが描かれ、そして彼女はその教祖に体を捧げてしまったというきついシーンが書かれるなどヘビーな話。設楽の妹のそうした話が出てきてからは、家では他の本を読んでしまうしそんなここまで嫌な雰囲気になりそうな予感がしてきたところまで読んで、読み終えるまで時間かけるのももやもやしそうだと思って、100ページあたりまで家で読んでいたけど、電車移動中に読む本にかえたもの。
 幸運にもといっていいのかわからないけど、彼女が信者になってから日が浅いときに団体が大事件を起こし、そして海月が知り合いのNPO法人に紹介して、仲間との連帯や世界とか大きなレベルでの活動を目的とする何がしかをやれるようにして、彼女(そしてカルトにはまってしまう人)が組織に求めるものをそちらで与えるようにしてくれた結果カルトの世界から連れ戻せた。だが、普通はそう上手くいかずに回りの人を散々傷つけ、巻き込みながらカルトの世界に沈んでいくのが常道だと思うと、ゾッとするね。しかしカルトにはまる人が求めるものはNPO法人でも手に入るし、そのほうが社会でも有益とする海月の弁は、話を聴いているとなるほどと思えるが、設楽と同じようにそれらを一緒に考えたことがなかったわ。
 しかし今回、相手がかなりやばいことをしようとしているとはいえ相手の本拠地に進入して、その宗教団体の構成員に暴力振るったりとかなり荒っぽいな。まあ、そうしたアクションシーンなどがなければ主人公たちの出番がなくなるというか、彼らが主役の物語ではなくなりそうだからしかたないけどさ。
 そして自らアルマゲドンを起こすことで、自分の求心力を高めようとした宇宙神瞠会の企みだったが、普段から自分の職分でよい仕事をしようとした多くの人々がいい仕事をして、無数の英雄となったことで死者も出ずにすみ、彼らの企みは失敗に終わった。しかしこうした無数の英雄の仕事を書いているというのを見ると、3・11以後の小説だと強く感じるなあ。