荒木飛呂彦の漫画術


内容(「BOOK」データベースより)

全く人気が衰えることなく長期連載が続く『ジョジョの奇妙な冒険』の作者、荒木飛呂彦。絵を描く際に必要な「美の黄金比」やキャラクター造型に必須の「身上調査書」、ヘミングウェイに学んだストーリー作りなど、具体的な方法論からその漫画術を明らかに!本書は、現役の漫画家である著者が自ら手の内を明かす、最初で最後の本である。

 冒頭でヒッチコックにインタビューした「映画術」がおすすめされているが、それは『伏線の張り方や心理描写の細かいテクニックなどが惜しみなく披露されて』(P7)いるようでちょっと興味わいて読んでみたいと思ったが、4320円は手を出しにくいお値段。
 最初の1ページのつかみは重要。基本的には5W1H、いつどこで誰が何をしているかがわかるように描き、そして読者の興味を引かせるものであることが大事。
 デビュー作やジョジョなど自身の漫画でどういう工夫をしたかやその意図を語った後に、実際にそうした工夫を使った該当ページ、本文中で触れられている箇所を図版として掲載して見せてくれているのはありがたいね。
 漫画の基本四大構造、重要な順に「キャラクター」、「ストーリー」「世界観」、「テーマ」。
 動機リストを作ると、キャラクター作りに役立つ。そうした動機の代表的・基本的なものが例としていくつもあげられていて、それを見るのもちょっと面白い。そうした動機の達成のために勇気を発揮することに読者は最も共感する。
 キャラクターの身上調査書を書いておくと矛盾がなくなったり、そうして埋めていくことで謎めいた部分が浮かび上がり、そこでキャラクターが立ち上がるようなもののようだが、かなり色々な項目を書くのだな。
 物語がどこに向かっていくかと言うストーリー以上に、一話一話のエピソードが読者の心をつかむ上で大事。
 ストーリーは必ず主人公が常にプラスに進んでいくのが基本。トーナメント制でない常にプラスの方法を考えて出来たのがジョジョ第三部の主人公一行が旅していく中での対決。個々の戦いでパワーアップ的なプラスにならなくとも、目的地に近づいていくこと、後戻りしないことで常にプラスにした。
 スタート地点がマイナスでそこからプラス、プラスで上がっていくのは○。壁にぶつかるというのは×。主人公を負けさせたい、挫折させたいという誘惑にかられることあるが、それはご法度。一回立場を捨てて戻ってくるのマイナス、プラスで0のパターンも×。
 『スーパーヒーローなのに「やめたい」というパターンのストーリーが一番嫌いです。せっかくスーパーヒーローという素敵な立場にあるのに、「やめたい」というのは、それだけで致命的なマイナスだと思います。そんな主人公では、読者も「あれ、何? 活躍しないの?」「どうせラストで活躍するなら早くやってよ」とおもうばかりなのです。』(P124)
 王道、エンターテイメントではマイナスNG。マイナスを承知であえて意図して挑戦するならばよいが、そうでないならだめ。またゾンビ映画などひたすら人間捨てていき、ひたすら下がっていく、マイナスだけを描いくことで、一周してプラスになる。しかしそこに友情、愛、希望などを入れると、マイナス・プラスの起伏になってダメ・パターンに入る。
 著者、ラスト前に大きな困難を用意し、それをどう切り抜けるかは描いている途中で考える。そのためジョジョ四部ラストの対吉良戦は、描いていてどうしたら勝てるかわからなくなる。
 セリフは自然体が一番とあって、ちょっとえっと思ったが、このキャラクターならこういう状況でどんなセリフが出てくるのが自然か、ということを考えての自然ということね。
 一番重要なのはキャラクターなので、早くストーリーに入りたくとも、その前にまずキャラクターに興味を持ってもらう必要がある。