幻獣辞典

幻獣辞典 (河出文庫)

幻獣辞典 (河出文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

一角獣、セイレーン、ゴーレム、八岐大蛇…。豊かな想像力が産みだした奇妙な存在たちを、知の怪物ボルヘスが集成した最良の異世界案内本。「イーリアス」「オデュッセイア」から、プリニウス「博物誌」、「千夜一夜物語」、ダンテ「神曲」、カフカ、C・S・ルイス等の著作まで、古今東西・森羅万象120項目を収載。

 序の『誰しも知るように、むだで横道にそれた知識には一種のけだるい喜びがある。』(P9)
というように、そうしたものを読んで感じるちょっとした面白さを「けだるい喜び」と表現するのはちょっといいな。
 想像された幻の獣たちを各数ページを使って説明している。色々な資料からその幻獣について言及しているものを引用するなどして、幻獣がどうイメージされ、どう書かれたかを書いている。その幻獣がいつ頃に、どう記録されて、誰がどのように言及しているかみたいなことが中心かな。
 また、そうした各項目をあいうえお順に並べている。基本的には一角獣とかサラマンドラみたいな伝説的な動物が中心だが、ポオやC・S・ルイス(アリスの作者)、カフカなどの小説家が作った想像上の動物についてもそれぞれ項目が作られて紹介されている。
 しかしもともと私はイメージ力が弱いので、図版もあるけど少数しかないから、馴染みのない幻獣はどんなものなのかいまいち想像できないものが多いな。
 しかしイラストとかで見覚えがあるような怪物でも、その起こりにおいては現在一般的に知られている形や性質とは違うというものがままあって面白い。
 ちなみに日本の伝説上の生き物については「神」の項目での地震を起こす鯰、そして「八岐大蛇」の2つが採録されている。
 「ヴァルキューレ」ヴァルハラに行った者は夜明けから日暮れまで戦い、その後そのなかで倒れたものも再び生き返って一同は神の宴を共にする、そしてまたという果てしない戦い。戦死した戦士たちの楽園だからある意味納得の内容、バトルジャンキー垂涎の代物なのかもしれないが、一般的な天国的なイメージとは大きく違うのが面白い。
 「亀たちの母」『中国人にとって天は半球対で、大地は四角形である。それゆえ湾曲した上部甲羅と平たい株甲羅を持つ亀を、世界の姿もしくは型と見る。』(P65)と言うのを見て、スティーヴン・キング「IT」に登場した亀ってそういうことかと今更合点がいく。
 「クラーケン」1752-4年に『ベルゲンの司教、デンマーク人のエリック・ポントピダンが『ノルウェー博物学』を出版した。読者を楽しませ、真に受けさせてしまったことで有名な著作である。』(P77)有名だけど、結構新しく想像された怪物なのねとちょっと驚き。
 「サラマンドラプリニウスは「博物誌」でサラマンドラは『きわめて冷たいので、氷と同じように日に触れただけで溶ける』(P108)というように冷たい生命体と記していて、ピュラリスないしピュラウスタと呼ばれるものを現在のサラマンドラのイメージである『「キュプロスの銅を溶かす炉の中に、火の真っ只中」に棲む。空気の中に出てきて少しの距離を飛ぶと、たちどころに死ぬ』(P108)と説明していた。しかしいつしかそのイメージをもつその幻獣は忘れられ、そのイメージはサラマンドラのイメージとなった。
 「チェシャ猫とキルケニー猫」チェシャ猫のようなにやにや笑いという嘲笑的な顔つきをするという意味の表現の由来、いくつもの説がある。例えばチェシャ州で歯をむき出しにした猫の顔をしたチーズが売られていた。または、チェシャ州がパラタイン伯爵領で高貴な生まれと言うしるしにその地の猫がはしゃぎまわった。あるいはリチャード三世の時代のキャッタリングという猟区管理官が密猟者たちと剣をマジ輪得るとき、怒りの笑みを浮かべる癖があった。など、さまざまな説明が付与されている。
 「トロールキリスト教伝来後、北欧の異教神話の巨人はトロールに変えられた。
 「パンサー」中世動物物語でパンサーといえば今日の肉食獣のパンサーではなく、その息は他の動物をひきつける甘いにおいを発散させ、流麗な声をして、山中の隠れた洞穴にするおとなしく孤独な獣として書かれる。そして七十人訳ギリシア語聖書でもそのパンサーはキリストを比喩するものとして使われている。
 「ファスティトカロン」巨大な陸地のような鯨(もっと昔にはアスピドケロンという亀だった)、そこに上陸した後、それが動いて船と船乗りが海のモズクになったというエピソード。ワンピースとかでグランドラインに入ってそんなにたっていないころに巨人二人が長年戦っていた島の話あたりで見たけど、実際にある伝説上の動物だったのね。
 「ペリカン」これもパンサーと同じく、伝説上のペリカン。いつくしみのあまり子供をころしてしまうと、あるいは子供が蛇によって殺されると、自分の胸を裂き、子供に血を与えて生き返らせる。地によって雛を生きかえさせるところから、キリストが人類のペリカンされた。
 解説、本書で厳重の説明をしている形式にのっとって著者であるボルヘスの説明をしているのはちょっと面白い。