ゼロからトースターを作ってみた結果

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

トースターをまったくのゼロから、つまり原材料から作ることは可能なのか?ふと思い立った著者が鉱山で手に入れた鉄鉱石と銅から鉄と銅線を作り、じゃがいものでんぷんからプラスチックを作るべく七転八倒。集めた部品を組み立ててみて初めて実感できたこととは。われわれを取り巻く消費社会をユルく考察した抱腹絶倒のドキュメンタリー!

 原料から「電化製品としての」トースターを自作しようとする。カラー写真がたくさん掲載されているので、文章だけでなくて、一つ一つの材料を作っていく姿が見られるのはわかりやすくていいね。
 軽い口調で、冗談を交えながら書いているので肩に力をいれずに読むことができる。
 著者はデザイナーで、著者紹介によると大学院の卒業制作としてこのトースター・プロジェクトを行ったみたいだ。
 トースターというありふれた存在を作るために苦労することで、ごく身近にあり、ごく普通に使用している製品の複雑さやそれを作るための煩雑さを知る。
 そうすることで大量消費文明の批判・反省し、ミニマリズムやエコを奨励するというか、現代の生活を省みるというような意味あいが書いてあるけど、本質はそうしたメッセージよりも、こんなことをやったら面白いんじゃないかと思ったからやったネタ企画なのではないかなと個人的には思う(笑)。
 基本的にまずは鉱石から産業革命以前の次代に存在した道具で鉄や銅などを作ろうと試みているが、 解説にもあるように、それではどうしてもできそうになかったりするものについては、ファジーにそのルールをゆがめている。その緩さもまたいい。
 実際に安いトースターを分解してみたら、それでも400個以上のパーツと、100種類の原料でできている。それを全て作るのは厳しいので、『僕の考える「まっとうに『トースター的』なトースター」を作るための材料を、最小限まで絞り込む』(P20)。
 そして「鋼鉄、マイカ、プラスチック、銅、ニッケル」の6種の材料に絞って、それらを作って、そしてパーツに形成してトースターを作ることになる。
 近代でコークスが用いられるようになったから、コークスを燃料として鉄鉱石から鉄を作ろうとした。しかしコークスを燃料に用いると木炭とは異なり多くの不純物がある、その不純物が鉄に吸収されてもろい銑鉄となり、更にもう一段階処理が必要とされる。そしてそれができるようになったのは産業革命期。
 そんなことを知り、改めて色々考えたら個人で使える鉄を作るのが難しいことがわかってきて詰みに近い状況となる。そんなときに『ネット上で、2001年に特許付与された、マイクロ波エネルギーを使って酸化鉄を溶錬する方法を発見した』(P75)ので、ルールを少しばかり逸脱して、家庭用レンジで溶錬を試みる。
 こうしたルールの逸脱も、こうして身近なものを用いて、そうした材料を作っているので興味深く読める。そして失敗についての話も同じように面白い。
 まあ、最後の「ニッケル」は時間的に差し迫っていて、鉱石を産出する場所に行けないという状態だったということもあり、コインを溶かして、それを部品の形にするということになるが、そのしまらなさも個人でしている無茶な企画ならでは(?)の妥協という感じで悪くない。笑いながらおいおいとつっこみを入れたいような感じといいますか。
 何はともあれ、そうした感じでトースターを作っていく。