本好きの下剋上 第二部 神殿の巫女見習い 2

内容(「BOOK」データベースより)

青色巫女見習いとして、忙しい毎日を送るマインに朗報が届く。母親が妊娠したのだ。生まれてくる赤ん坊への贈り物として、絵本作りを開始する。一方、神殿内では慣れないことばかりで、自由に動けない。巫女としての教養を身につけさせられたり、新しい側仕えの管理に追われたり…。孤児院長しての仕事も山積みだ。相変わらずの虚弱な体も何のその、本への愛情を武器に全力疾走を続けるマインが、念願の一冊を手にする時、貴族世界への扉が開き、物語は急展開へ突入してゆく!近付く冬を前に、風雲急を告げるビブリア・ファンタジー!書き下ろし番外編×2本収録!

 1月にシリーズ第1巻が発売されてこれで5冊目。元々web版があって、本編部分は完成されているとはいえ、年間5冊も発刊してくれたのは嬉しい。
 今回の巻末の小挿話は新しく側仕えになったロジーナの話と、現在神殿のマインの厨房で料理人をしているエラの話。
 ロジーナの話は、「閑話 前の主と今の主」の内容をロジーナ視点にして、過去の話(前の主クリスティーネの元での話)を少しとロジーナがマインの側仕えとして適用していることを書いた後日譚を追加したもの。
 そしてエラの話では、彼女がこの料理場に来るまでの話と神殿のマインの厨房にいる人々の間での雑談が書かれる。しかしエラの話、料理人を目指してもいずれ叔父の家で女給として出なければいけないし、お金を貰って「客」も取らないといけなくなる。それならば、怖い場所という認識がある神殿に行こうと変わりないし、チャンスと思って、この仕事に就こうとエラは決めた。こうしてところどころで、そうしたシビアな世界観あるいは細かな設定が垣間見れると、物語世界の深みを感じさせてくれるから、いいね。
 今回本の作成について大いに進捗があり、ついにマインが念願の本(聖典絵本)を完成させる。本が手に入れられなければ自分で作るという、最初は本末転倒気味の目標というか、自分自身の気を持たせるための目標であったとは思うが、今回でようやくその目標が達成される。
 また、騎士団の任務に神官長と同行するというイベントがあり、今までは基本的には神官長という好意的にマインを見てくれている人くらいしか貴族との接触がなかったが、このときに本格的に貴族社会との接触を果たす。そして身分差の厄介さを改めて実感することになる。
 この世界の弦楽器フェシュピールを練習するように神官長に言われて、その初回で彼に楽器の説明を受けたときに、ためしに「チューリップ」の演奏をしたら、才能があるのではといわれて、あわてて否定することになる。実際どんなものかというテストとして、そう触ってみる気持ちもわかるが相変わらずのうかつさだ。まあ、そういった危機感がないところとか、わかりやすいところから、神官長の信頼を得ることにつながるのではあるが。
 今回で絵が上手く、今後とも本の挿絵を担当していくヴィルマと巧みに楽器を弾きこなし、マインの音楽での教師役となるロジーナが側仕えとなる。
 175ページで完成された本を見て感無量のマインの挿絵が描かれているが、そのように嬉しいし感慨深い思いに浸っているマインとそれをほほえましげに見守るルッツとトゥーリというイラストはいいね。
 マインがうまく要約して現代語にした聖典絵本は高評価だけど、アレンジした「シンデレラ」は非現実的すぎると不評というのは、社会のリアリティや前提の違いがでていて、それで受け入れられる(面白いと思われる)物語はぜんぜん違うことがわかって、いいね。そうしたところまで現代無双でないところというか、現代のものを全て普遍的な価値のあるものと書かないないところがいい。
 奉納式は農作物の出来不出来に影響を与える重要な仕事であるが、そういった仕事をしていることを下町の住民たちは知らないようだ。
 エピローグ、マインの文章力などで不自然なほどの教養を感じ取った神官長は魔法具で彼女の記憶を見て、怪しいものでないか確認することになる。そうすることで彼女の前世について知ることになる。魔法具を飲む前に味を尋ねて甘いといわれて神官長が意外と感じたようだが、味で記憶がどのような記憶かわかるとかで、怪しいものだったり複雑な背景だったら不味いとなるだろうから、そうした反応かと思いきやぜんぜん違う反応で意外だったということか。流石に別世界の住民とはわからないだろうから、怪しい者である可能性高いとおもっていただろうから、流石の神官長も意外さを顔に出す。
 そしてその時に彼女と同調しなければならなかったので、神官長は彼女が母を見たときの懐かしさや後悔に呑み込まれてしまった。こうして彼女の思いや記憶を覗いたことで、疑いも晴れて、彼女の記憶を知る、マインの良き理解者となった神官長。マインも記憶を見られることを怖れたり起こったりしない変わった人物と言うこともあって、神官長はこれで距離を置かれると思っていたが逆に二人の仲がこれで深まる。