24人のビリー・ミリガン [新版] 上

内容(「BOOK」データベースより)

1977年、ビリー・ミリガンはオハイオ州で連続レイプ犯として逮捕された。だが本人には全く犯行の記憶がない。精神鑑定の結果、彼の中に複数の別人格が存在し、犯行はそのうちの一人によるものだという驚愕の事実が明らかに…。『アルジャーノンに花束を』で知られる作家キイスが、本人へのインタビューや関係者の証言をもとにビリーの内面の葛藤を克明に描き出し、「多重人格」を一躍世に知らしめた傑作ノンフィクション。


 ノンフィクション。前々からちょっと気になってはいたが、ようやく読みはじめる。
 ビリー・ミリガンは『合衆国の歴史上はじめて、重罪を犯したにもかかわらず、多重人格であるため、精神障害という理由で無罪とされた人物』(P9)、単なる多重人格ではなくそうした人物だったのね。
 第一部では、彼が起こした事件によって警察に捕まえられるところから始まる。その後、弁護側が彼が多重人格だと知って、そのことによって無罪となる。そして裁判中から彼の治療がはじまって、無罪となった後に彼の全ての人格が統合したところで終わる。
 彼は人格が統合されたことによって、多くの空白があった記憶が戻って、さまざまな人格が体験したことを知る。第二部では、取り戻した記憶で彼自身その時はじめて知ることになった自分の人生について語られる。はじめて別の人格ができたときのことだったり、さらに他の人格ができていく過程、そしてその人格同士がアーサーとレイゲンという2つの人格によって相互に他の人格を知って連絡が通じて、徐々に安定していく様子が描かれる。
 まだまだ全部の人格が相互に協力して、主な人格が自分が出ていないとき(「スポット」にあたっていないとき)のことを大体知っているという状況にまでは達していないが。まあ、事件を起こしたのもそれが十分にできていなかったからなので、それは不完全なままで終わるのだけど。
 ビリー・ミリガン、護送中に手錠をはずしてじっとしてたり、こぶしで便器を破壊して自殺を試みたりといった驚異的なことをしてみせる。前者は知識と訓練によるものだということらしいが、後者はそれほど体格がよいわけでもないのにすごいな。人格が変わることで肉体的なリミッターが外れるのかしら。
 弁護側の一人であるゲイリーは彼が多重人格であるということを疑わしく思っていたが、実際彼の変化を見て、話を聞くことで信じる気になってくる。だが、軽罪でない罪で無罪を勝ち取れるかは前例ないし、微妙。そこで弁護士の一人である当地の検察からも信頼されている精神科医であるハーディング医師に診断してもらおうとする。そのようにして検察に信用されるように努める。そして彼や検察官の前で、いくつかの人格が変わる姿を見せた。それを見た検察の人は、怪しく思っていたが「芝居をしているようには見えなかった」と述べる。
 そして多重人格の事実を知ったと同時に、彼が虐待を受けていた過去も知ることになる。そして基本人格のビリーが長く眠っていることも。また、安全な場所では英国訛りで理屈っぽいアーサーが、危険な場所ではスラヴ訛りで怪力のレイゲンがスポットを管理していることを知らされる。
 裁判が終わる前から、人格統合の努力は始まるが、ミリガンが安心して落ち着ける状況ではないので上手く統合はできない。
 本当に彼を裁判で無罪にすることが正しいものか悩むものもいたが、その裁判でミリガンは無罪となる。そしてハーディング医師の病院で治療が開始される。
 そしてついに彼(ら)は、一つになったビリー・ミリガン、<教師>となる。
 そこで第一部は終わり、第二部で過去の話が物語られ始める。幼い頃のはじめて違う人格と入れ替わったときのこと、そしてその間の記憶がすっぽりと抜け落ちているが、それは基本人格のビリーがほかの人格のことを知らないというだけでなく、新たにできた人格も基本人格の記憶を持っていないし、基本人格のビリー以外で記憶をある程度共有しているということも当初はなかった。しかしアーサーなどが徐々に他の人格と連絡を取り始めて、スポットに立っていないときのことも有る程度知ることができるようになる。そうなったのは、9歳か10歳くらいのころの話かな。
 上巻では二部の途中、18歳のころの話までが収録される。