ケルトの神話
- 作者: 井村君江
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1990/03/27
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
神々は英雄と結婚し、英雄はまた妖精の恋人に…「幻の民」ケルトの人びとが伝え残した神話のかずかず。目に見えぬ世界「常若の国」や、目に見えぬ種族・妖精たちの存在を信じていたケルトの人びとの想いが今に甦える。ケルト文化の理解に欠かせない1冊。
最初にケルトの歴史などについての説明がなされる。ヨーロッパの広い地域にいたケルトの民だが、そうしたケルトの神話で残っているものが少ない。しかしアイルランドにケルトの特色をよく保存してある神話が残っているので、そのアイルランドの神話について書かれている。そういうわけでアイルランドの神話中の物語が紹介される。
アイルランドの神話には大きく分けて三つの時代にわかれている。それは(1)ダーナ神族の神話、(2)アルスター神話群(赤枝の戦士団、ク・ホリンの話など)、(3)フィニアン騎士団(フィン王とその騎士団の話)。そして3の後がキリスト教布教が始まって以後の歴史になるみたいだ。そのため、史実の時代になるまでの神話的な歴史の流れがわかる。
ケルトの天地創造神話はあったかもしれないが、現在には残っていない。神代からアイルランドにパーホロン、ネメズ、フィルボルグ、トゥアハ・デ・ダナーン、ミレー族という5つの種族がやってきて、その興亡が書かれる。ク・ホリンやオシーンという英雄はミレー族。
『アイルランドで妖精は「シー」といいますが、この言葉は塚や砦など丘の場所を指すものでしたが、そこに住む人たちの意味となり、シー(丘の人たち)といえば、超自然の力を持った精霊たちを意味するようになりました。ダーナ神族たちが丘の人々、妖精となり、地下の国を支配していると信じられ、地方では今でも土や作物・豊作の神、そして川や湖の神となっています。』(P77)ミレー一族に敗れたダーナ神族は地下へと逃れた。しかし姿を隠したり別の姿をとって現実に現れているとされる。
そして『土地に関係のある女神たちは丘の下にある地下の世界に住んでいるわけで、のちになりますと妖精の丘に住んでいる要請の女王と見なされていきます。』(P138)
ダグダが地面を掘ってそこにおかゆを流していれてスプーンで食べたというエピソード。それを見て、遊牧民で犬に餌をやるときにそうして穴を堀った中に餌を入れるという話も読んだことがあるけど、人間も昔はそうやって食べていたのかなと思ったりした。でも、調理した釜があるならば、その釜のままで食べればよいとも思うので、どうなのだろうか。
Fateでしか知らなかったク・ホリン(クー・フーリン)やディルムッドの物語が見れてよかったな。この二人は時代的には300年の隔たりがあるのね。
しかしディルムッドとグラーニャの逃避行16年も続いたとは驚き。
ディルムッドの死が、フィンは井戸から水を両手ですくって飲ませればどんな傷も直す能力があったが、彼に妻となる人を奪われたことに対する思いがあったから、二度水を零して三度目に救った水が唇に届かぬうちにディムルッドは死ぬ。このエピソード、どこかで見たがディルムッドのエピソードとして以前にみたことがあるのか、それとも別の伝説の一つとしてみたのかわからずちょっと思い出せない。
あとがきに『一つの話でも、筋がさまざまに違って伝わっており、ク・ホリンを最期に刺したのはだれか、ディアドラはどのように身を投げたか、恋人が死んだ後のグラーニャの身のふり方はどうだったか、など』(P261)色々なバリエーションがあるとあるので、それを読むとどういった違いがあるのかも知りたくなるね。