黒檀

黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

内容(「BOOK」データベースより)

ポーランドの新聞・雑誌・通信社の特派員として世界各地を駆けめぐり、数々の傑作ルポルタージュを上梓した著者による、小説よりも奇なるアフリカ取材の集大成。数十万人が山刀で切り刻まれた大虐殺の要因を解説する「ルワンダ講義」や、現代アフリカ史上最も有名な独裁者の素顔に迫った「アミン」、アフリカ最大の青空市場の人間模様を描いた「オニチャの大穴」ほか、1958年にはじめて寒冷の地ヨーロッパから炎熱の地へと降り立った著者が、以後40年にわたってアフリカ各地を訪れ、住民と交わした生きた言葉をもとに綴った全29篇の文学的コラージュ。待望の本邦初訳。


 この世界文学全集にノンフィクションとして入ったということで以前から気になっていたが、ようやく読了。
 ノンフィクション。アフリカのさまざまな国での体験やそこの情景、社会や歴史などを綴ったルポルタージュ集。そして一編が十ページ程度から数十ページのものが集められている切れ味のよい短編ルポルタージュ集。年代的には1958年から40年にわたっていて、幅広い時代を扱っている。
 非常に興味深く面白かったので著者の他の本を読んでみたくなるのだが、amazonでけんさくしたら 
新品で手に入るようなものが他にないことを知って残念に思うことになる。
 1957年にガーナがサハラ以南アフリカでは最初の独立を果たした。それきっかけで当時東側だったポーランドで記者をしていた著者がアフリカに赴くことになる。

 短いページ数でその国の人々の姿や街などについて描写されていていいね。そうして人や土地についての描写もしっかりしていて、その土地・気候ならではの問題や感覚などの興味深い話もいろいろ書かれていて面白い。
 アフリカ社会や市井の人々の姿を描いたもの、「ザンジバルケニア/タンザニイカザンジバル編)」のような政治的動乱の取材記、「ルワンダ講義(ルワンダ編)」のように歴史についてわかりやすく簡潔にまとめたものや「ドクター・ドイル(タンガニイカ編)」のように病気をしたときに編集部も著者も金がないということもあって無料の私立病院にかかったことでそこの医療スタッフと懇意になった話や「ぼくの横町、一九六七年(ナイジェリア編)」」のような自身の体験談など、印象の異なるさまざまな短編があるがどれも興味深い。自分のことや体験談が書いてあるのもいいよね、そういうことが暮らしや社会の空気を伝えてくれる。そしてそうした中で自然に差し挟まれるその土地や歴史などについてのちょっとした話も面白い。

 「ぼくは、白人だ(タンガニイカ編)」植民地時代にそこに駐在する官吏は極めて条件が良かった。独立時に旧植民地国家を一切合財譲渡されたので、新たな行政府の人間はその特権を手放さなかった。『ヨーロッパ人官吏が、常識外れけた外れの報酬を享受したその制度を、地元民の時代となってもそのまま受け継ぐ――このような、いわば、アフリカ国家の植民地的起源が原因となって、独立アフリカでは政権奪取の闘争が、にわかに前代未聞の苛烈で残酷な性格を露呈した。』(P49)アフリカにある国の政府高官が大きな富をもっていたりするのは、この植民地時代の官吏の収入が極めて良く、その地位を宗主国の人間からその国の人間に変えたのはいいが、その特権をそのままにしたからそうした腐敗だったり権力闘争が起きるということか。植民地時代の官吏の給金とアフリカの政府高官の問題がつながっているとは意識したことがなかった。
 タイトルは、白人ということで睨まれて、著者がポーランドは130年間同じ白人の植民地下であったと話しても騙そうとしていると思われ、長い間苦しみを与えた「白人」として見られた。そのことからは逃れられないということ。
 「サリム(モーリタニア編)」トラックに乗せてもらったが、砂漠でトラックが止まって立ち往生。
 言葉も通じないし、水を分けてもらえなければどうしようなどと考えていると、不意にオアシスが見えてそのことをトラックを修理しようとしている運転手のサリム伝えようとする。それで異常に気付いたサリムが水を渡してくれて、それを飲んだらオアシスの幻影が消えた。そして水とビスケットで二人で何とかしのいでいると、別のトラックが来たというところで終わる。10ページ程度の短編だけどこの言葉が通じないけど、水や食べ物をわけ、そして同じこと(トラックが直ったり、別の車が来ること)を願っているというのがいいね。それからこの状況で、何も力になることもできず何を持っているわけでもない脆弱な存在となってしまい、そんな中で水やビスケットを分けてもらうという優しさを示されたということがなんかいいなと思える。
 「ルワンダ講義(ルワンダ編)」20ページほどでわかりやすくルワンダ虐殺にまで至ってしまったツチとフツの関係がこじれていった歴史がまとめられている。
 「冷たき地獄(リベリア編)」19世紀アメリカのリベラル慈善団体が黒人奴隷だった人々をアフリカに帰して、そこで彼らが建国した国リベリア。そんな特異な経緯もあって少し興味があった国。
 南部アメリカのプランテーションで奴隷であった彼らの知っている社会が奴隷制の社会だった。そういうこともあってその地に元からいた人々を奴隷にして、奴隷制社会をつくって自らは主人・支配者となった。
 「マダム・デュフ、パマコに帰る(セネガル/マリ編)」『貧者の町は狭く、無数の小屋がぎっしり詰まって重なりあうほど。商売の店開きに確保できる唯一のスペースは、線路と、それが走る土手だけだ。だから、そこでは早朝から大勢の人々が忙しく立ち働く。』(P318)そういう光景をテレビで珍しいものとしてうつされているのは以前に見たことがあったが、その背景にはそんな理由があったということは知らなかった。