本好きの下剋上 第三部 領主の養女1

内容(「BOOK」データベースより)

自身の魔力を貴族から狙われたマインは、下町の家族や仲間との別れを決断した。大切な人々に危険が及ばないよう、名前も「ローゼマイン」に改名し、「領主の養女」として新生活を開始することになる。だが、その上級貴族社会での日々は過酷だった。儀式や礼儀作法を学ぶための猛特訓に加え、就任した神殿長や工房長の責任は重い。病弱な7歳の少女には厳しすぎる…はずが、神官長からのご褒美が「神殿図書室の鍵」だったことで一変!これさえあれば、たくさんの貴重な本が読める!名前が変わっても、変わらぬ本への情熱で、ローゼマインは新世界を駆けぬけていく!広がる緻密な世界観と本の生産体制。本を愛する全ての人に捧げる、ビブリア・ファンタジー第三部開幕!書き下ろし番外編2本+椎名優描き下ろし「四コマ漫画」+第1回人気キャラクター投票結果発表などなど、盛りだくさん!


 プロローグで、ローゼマインの母という設定となったカルステッドの第三夫人だった故ローゼマリーまわりの事情が明かされる。第一夫人のエルヴィーラがローゼマリーを疎んだというのは、カルステッドが第二夫人・第三夫人が、実家間の確執から飛び火して対立していたのを、夫である彼がローゼマリーの肩を持ったから、エルヴィーラは公平のため第二婦人側に着いたということのようだ。
 カルステッドはローゼマリーに今も恋々としているが、当時その気持ちを表に出してしまい、家内で公平な対応をとれなかったということか。
 そういう話を聞いて、想像をたくましくすると、カルステッドは実家の確執とかは棚に上げてそれはそうでも家中でそうしたことを行ってほしくないと裁定したんだろうな。たぶんローゼマリーもそういう実家と私たちとは無関係という風に弱音を吐露したのだろう。一方で第一夫人は上級貴族として結婚が政治含みで、実家からの影響があるのは当然という現実主義者なのかも。
 更に妄想するに第一夫人エルヴィーラとカルステッドはそうした家同士の思惑あっての結婚で、エルヴィーラがカルステッドが好まない政治的な部分の補佐をするためもあったのかもしれない。そしてローゼマリーとは純粋な恋愛結婚で、だからこそ彼女はその家が影響を与えるという部分にいささか鈍感だったので、第二婦人からのあからさまに隔意を示されたことに傷ついて弱音を吐いたのかもしれないな。そしてそこらへんにちょっと鈍感な上にローゼマリーにべた惚れして視野が狭くなっていたカルステッドの良かれと思っての介入で、さらなる家中の雰囲気がピリピリすることになってしまったということかな。
 そんな風に、この情報で色々と想像が膨らむな。
 カルステッド家の三兄弟のイラストを見ると、三男のコルネリウスがこの時点では案外幼い。ローゼマインと貴族院で被った期間があったと思うから確かにそのくらいの年齢だろうけど、私が変に兄弟三人のイメージが混同することが多かったから少し意外感があった。
 ヴィルフリートが新しく妹になったローゼマインと遊びに行こうと手をつないで連れ歩こうとするも、ローゼマインの規格外の虚弱さが(当然のことながら)わからずに彼女が倒れる。手っ取り早く虚弱さを分からすために、ヴィルフリーとを引きとめなかった。そのことがフェルディナンドの口から語られるのを聞いてさすがフェルディナンド、容赦がないと思った。しかし巻末の短編を見ると、コルネリウスが護衛騎士がつく前に何とかローゼマインの虚弱さをヴィルフリートらに知らせることができないかとフェルディナンドに相談していたのね。
 それからフェルディナンドも『ヴィルフリートも根は優しい』(P87)とその性質は認めているのね。
 「領主とイタリアンレストラン」無事に店ができて、正式開店前に新しい物好きな領主ジルヴェスター、そしてカルステッド、フェルディナンドとその店で食事をすることになる。このエピソードはおいしそうな料理を堪能している感があって、web版から好き。ただ、現代人にしたら十分な量だけど、中世基準とか、カルステッドのような騎士とか身体使う人にとってはちょっと少なくないかなとも思う。まあ、もっと色んな料理を出して、それに対する反応が欲しかったからそう思うだけかもしれないけど。
 レストランの料理人を貸与して、レシピを教えるという提案をローゼマインがする。フェルディナンドはその提案を孤児院の費用集めの一環と見抜く。しかし流石にそれと同時にハッセの孤児院を整えるのに必要な帰還を捻出するための策というのは気付かなかったか。貴族と平民では色々と感覚が違うから、頭の良い神官長でもそこら辺を気付かないというのはリアリティがあっていいね。
 リヒャルダは息子がフェルディナンドの側近だし、フェルディナンドの親世代くらいのイメージだったが、案外年を取っているイラストで少し意外だった。
 ローゼマインの祝福で成長期を終えたダームエルの魔力が成長している。そのことについてカルステッドがジルヴェスターの耳に入ると、彼がさんざんいじられることになるから言うなとローゼマインに口止めをしている。その時にフェルディナンドに言っても、ジルヴェスターから逃れるためにそれをジルヴェスターに話すからやめろと言われる。
 ローゼマインはその「弱み」でトロンべ紙を生産する時に、トロンべを生やすのをダームエルに見て見ぬふりをさせる。結局彼は知らなければ言えないからと、その光景は見なかった。しかしフェルディナンドはダームエルの魔力が伸びていることは知っているのだから、案外真相までたどりついているのかもな。確証はもてなくとも、そうかもしれないくらいは思っていても不思議ではない。
 孤児院の資金集めのためのフェルディナンドのコンサート。リヒャルダの押しもあって、神官長が不承不承受け入れる。そしてフェルディナンドのイラストが多いに売れる。神官でありながらすごい人気ぶりだ。あるいは神官という貴族的な価値観だと下に位置する立場だからこそ、手の届かない遠い人といった感じでなく人気があるのかもしれないが。
 「妹の護衛騎士」コルネリウス視点の話。ローゼマインが貴族生活を始めた当初の努力ぶりが書かれていて、いいね。
 「腹の痛い料理人」フーゴがイルゼに、明日の領主らが来る食事会に出す、ダブルコンソメを味見させて、おもしろくなさそうに『アタシの出番はなさそうだね』(P375)と言われるシーンが好き。フーゴは緊張しながらも、イルゼは格上の料理人だが、ダブルコンソメは自分しかつくれないし、ローゼマイン様のレシピなら対等に戦えると思っている。その強力なライバルに自信作が面白くなさそうに認められて「勝った」と喜んでいるのがいいね。