虫めづる姫君 堤中納言物語

虫めづる姫君?堤中納言物語? (光文社古典新訳文庫)

虫めづる姫君?堤中納言物語? (光文社古典新訳文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

風流の貴公子の失敗談「花を手折る人(花桜折る中将)」。年ごろなのに夢中になるのは虫ばかりの姫「あたしは虫が好き(虫めづる姫君)」。一人の男をめぐる二人の女の明暗をあぶり出す「黒い眉墨(はいずみ)」…。無類の面白さが味わえる物語集。訳者エッセイを各篇に収録。


 kindleで読了。現代語訳。ひじょうにくだけた訳となっていてわかりやすい。『中将は、いいところ見ちゃった、とうれしくなった。』(N133あたり)とか『え、それはどこの家の話? もしかして、あの、桜がたくさんある荒れた屋敷? おまえ、なんであの家、知っているの?』(N169あたり)などくだけすぎなんじゃないかと思ってしまう部分もあるけどとても読みやすかった。
 短編集で『作者も書かれた時期もばらばら』(N39あたり)のアンソロジー
 一つの短編が終わったすぐ後に、『「○○」を読むために』という訳者のその物語の解説のようなものが書かれているのもいいね。
 「ついでに語る物語 このつゐで」中宮は近頃帝が自分のもとを訪れてこないという状況の中で語られる物語が、『思うようにならないことがたくさんある、と暗に伝える内容』(N501)だが、だんだん気が重くなるような内容となる。そうして暗い感じになるなかで、最後に帝の訪問が告げられて、雰囲気は一変してにぎやかに準備をはじめるという終わり。
 『「ついでに語る物語」を読むために』で、そういう物語だとわかってもう一度読んだ。最初は語られている場所に何か意味があるとはわからなかったが、それがわかると面白く感じるな。
 「あたしは虫が好き 虫めづる姫君」表題作で、この短編を一度は読みたいという。虫好きで、年頃の女性ならぬく眉を抜かず、歯にお歯黒もつけない、そのように取りつくろうのが嫌いな主人公の姫君。古典作品としては非常にユニークな主人公だし、続編がないのに「二の巻にあるべし」と続くようなことが書いてあるのも面白い。この後の姫君と右馬佐がどうなるのか続きは普通に読みたいので、実際には続編が読めないことが悲しいな。
 「越えられない坂 逢坂越えぬ権中納言」菖蒲(あやめ)の根合わせ、菖蒲の根の長さを競い長寿を祈る行事。左方と右方に分かれて競って遊ぶ。行事とはいえ貴族たちが菖蒲の根の長さという小さな遊びを楽しんでいるのがほほえましい。
 「貝あわせ 貝あはせ」この短編すごく好き。
 子供たちが慌ただしく出入りする屋敷を見て蔵人の少将は興味をひかれる。その邸の様子をうかがうと、その家で働く女の子に気付かれ、彼女から話を聞く。するとこの家の姫君と、本妻の姫君が貝あわせをすることになった。脚注によると『この物語での貝合わせは、貝の珍しさ美しさを競うもので、二枚貝の裏に描かれた絵を当てる貝覆いとは異なる。(貝覆いも後に貝合わせとよばれるようになった。)』
 それで自分たちの仕える姫を勝たせるために貝を集める子供たち。しかし母が亡くなっており、弟くらいしか味方となる人物がいない。一方で相手の姫は方々に手を尽くして貝を集めている。
 明日の貝合わせの前に相手の姫が来て、彼女は勝ちを確信して、得意そうに姫に言葉をかける。それを隠れて見ていた少将はこちらの姫を勝たせたいと思う。
 そして立派な洲浜の贈り物をして、隠れて思わぬその贈り物に子供たちが喜んでいる様を見守る。これで姫の面目も保たれたろう。
 こうした頑張る子供たちに秘かにプレゼントを贈るストーリーっていいよな。
 「思いがけない一夜 思わぬ方にとまりする少将」児童向けの『堤中納言物語』には収録されていない一編。それも納得。二人の姫君がかわいそうすぎる。
 「断章」散逸説、未完の物語説、『さらには、十編の物語にこの断章を付すことで、いかにも古い物語らしく見えるようにした仕掛けではないかという考えもある。』(N2309)もし、そうだとしたら面白いな。そして書かれた時代はばらばらだが、断章を含めて、春の物語から始まり冬の物語で終わるという構成になっているようだ。