なぜいま人類史か 渡辺京二傑作選3

渡辺京二傑作選? なぜいま人類史か (新書y)

渡辺京二傑作選? なぜいま人類史か (新書y)

内容(「BOOK」データベースより)

われわれはどこに行くのか?世界はいかに獲得されるのか?現代資本制システムによって断ち切られ、漂流する“個”の孤絶を真正面から見据えつつ共同社会をイメージする。人類史的な課題を射程にいれた著者存念のアルファからオメガまでがこの一冊に込められた。


 講演集。話し言葉で書かれる。『われわれはどこへ行くのか? 世界はいかに獲得されるのか? 現代資本制システムによって断ち切られ、漂流する<個>の孤絶を真正面から見据えつつ共同社会をどうイメージするのか? 本書は、そうした著者積年のテーマを平易な言葉で語った初の講演集である。』(P298)

 「なぜいま人類史か」人間の社会性と共に孤独を希求しているという話や著者が現代文明がどういう文明かという考察、そして現代文明が超えるべき課題についてなどが書かれている。
 この論の最後で『私にできることは、課題を抱いて考えつくすことです。』(P103)と書かれていることからもわかるように安易な答えのようなものは書かれない。そのように明快な結論が出ない話だから難しいけど面白い話。
 人間の群れ(社会)の中での暮らしと、群れから離れたいという衝動という矛盾する欲求をあわせもっている。『私たちは社会という制度から離れられないことを知っているくせに、離群という衝動にさいなまれずにはおれない。そこから離れようとせずにすむ群れの構造というものは、この世にないものであろうか。およそこのようなテーマが、私たち人類の織りなしてきた人類史を貫いて、アリアドネの糸のように見えかくれして来ている事実に、私たちは目をつぶるわけにはいきません。一切の宗教が、哲学が思想が、そして表面は政治的社会的に見える運動さえも、このような「天地生存」と「社会生存」とが分裂せざるをえない人の世の構造から発しております。』(P28)その二つに揺れ動き、そして両者を満たす在り方を望む人々。
 近代のシステムは独りでありたいという離群の思いを満たしてくれるシステムでもある。
 人間は世界との意味的統合なしには生きてはいられない。しかし現代文明の文化的相対主義は、その意味を解体した。
 「共同体論の課題」人間は共同体の世界から、個の世界へ移動した。しかし共同体への憧憬は心の中にある。しかし単純な引き返しはできないし、簡単な処方箋もない。そのため『ただどうしようもなく「個」の社会の中で漂流しながら、人間の共同体的な関係というものはどういうものであるか、それはどうしたら創り上げることができるのか、ということをたえず課題として持たねばならないのです。』(P147)
 「外国人が見た幕末維新」わずらわしさから解き放たれ、低い水準ではあるが豊かで、邪気なく満足げな民衆の姿。現代とは異なる日本人の姿と、それを生んだ江戸時代の社会、それを見ている近代人(西洋人)の視点など後に「逝きし世の面影」で書かれたことが話されている。
 「明治維新をめぐる考察」革命についての話、明治維新の担い手の話、近代の強制力の話などについて書かれている。
 今日の発展途上国や幕末の日本は、近代国家(国民国家と工業文明)を採用しなければ、世界という舞台上で『永久に踏んづけられる世界ドラマの端役に甘んじるかどうかという問いを突き付けられたのです。もしそれに甘んじないなら、国民国家と工業文明を建設せねばならない。これは好むと好まざるとを問わずにやらねばならぬことで、彼らの前にはほかの選択はなかったといってよろしいのです。』(P267)国民国家と工業文明を採用せざるを得ないという近代の強制力。