コリーニ事件

コリーニ事件 (創元推理文庫)

コリーニ事件 (創元推理文庫)

 シーラッハ初の長編小説。長編でも短編と変わらず、簡潔なのに無味乾燥にならない文章でいいね。
 犯人が被害者を殺した理由については早々に予想できるけど、最後の展開がいいね。
 駆け出しの弁護士カスパー・ライネンはそうとは知らずに、友人の祖父で自身も子供の頃から付き合いの人ハンス・マイヤーを殺した男コリーニの弁護を引き受ける。本名がジャン=ブパティスト・マイヤーで通称とは違うのでハンス・マイヤーの孫、亡くなった友人の姉で初恋の人であるヨハナ・マイヤーに指摘されるまでそのことに気づかなかった。
 被害者側についた弁護士は有能で理性的な大物弁護士マッティンガー。
 加害者側についた弁護士と被害者側についた弁護士がバチバチという感じではなくて、とても普通に会話しているのがリアルでいいね。ライネンが被害者と知り合いということがわかって弁護士を辞任しようと思っていることをこぼす。するとマッティンガーは気持ちはわかるが裁判で任を説かれるのは依頼人との信頼関係が揺らいだときだけと法に定められているから受理されないだろうし、『きみはある男の弁護を引き受けた。いいだろう、それは過ちであって、依頼人の過誤ではない。きみは依頼人に責任がある。収監された男にとって、きみがすべてなのだ。きみは死んだ被害者との関係を依頼人に話し、それでも弁護を望むかどうかたずねなければいけない。依頼人がそれを望むのであれば、きみは依頼人のために働き、全力でしっかり弁護すべきだ。』(P55)と言う。その言葉を聞いて考え直す。
 コリーニは弁護士であるライネンに対しても犯行を行った理由を一切話さない。そうしたこともあって彼の弁護士を続けるかどうか迷っていたが、近所のパン屋との会話でコリーニを弁護すること、彼に真実を語らせることを決心する。
 手口から復讐だということはわかるが、警察も検察も犯人と被害者の接点を見つけられなかった。そしてコリーニは逮捕されて数カ月たっても弁護士であるライネンにも動機を明かさない。
 ライネンはヨハナとともに子供時代に休みを過ごした被害者ハンス・マイヤーの屋敷に行き、何か今回の事件につながるようなものがないか探してみたものの成果を得られなかった。
 そして動機不明のまま裁判がはじまった。その裁判の途中で不意にもしかしてと思い当たることに気づき、そのことを調べて、そこで情報を得る。その情報をもとにコリーニと話すと、ようやく彼の口が開いた。
 裁判も終わりに近づいた時に犯人の動機と過去の出来事が語られる。その事実を聞いて法廷の雰囲気は一変する。そして最終盤に法廷で語られる、その過去の出来事における法律の解釈や適用などついて話が刺激的で面白い。この小説をきっかけに、この小説で問題となった条文は改正されたようだ。