スペース

スペース (創元推理文庫)

スペース (創元推理文庫)

東京創元社のサイトから

内容紹介
前作『魔法飛行』で生涯最大の冒険を経験した入江駒子は、その余波で風邪をひきクリスマスを寝て過ごすことに。けれど日頃の精進ゆえか間もなく軽快し、買い物に出かけた大晦日のデパートで思いがけない人と再会を果たす。勢いで「読んでいただきたい手紙があるんです」と告げる駒子。十数通の手紙に秘められた謎、そして書かれなかった“ある物語”とは? 手紙をめぐる《不思議》にラブストーリーの彩りが花を添える連作長編ミステリ。伸びやかなデビュー作『ななつのこ』に始まる、駒子シリーズ第三作。解説=光原百合

収録作
スペース/バック・スペース
スペースの約半分が手紙だった、それが少し長かったように感じた。
バック・スペースの文章で個人的に共感できる文章が多かった。

 

 読書は彼女にとって、娯楽であると共にこの上ない喜びなのだ。几帳面に並んだ活字を追うことによって頭の中につむぎだされていく物語を、いつも体中で味わっている……そんな顔をしている。(178p)

 結局のところ私は、「誰か素敵な人が現れないかなあ」とうそぶきながら、いざそんな男性が現れたら狼狽してしまう口なのだと思う。自我と自意識だけはもてあますほどあるのに、自身はない。だからある程度以上近しい付き合いとなると、とたんに萎縮してしまう。
 外部からの働きかけがなければピクリとも動かない石ころ。それが私なのである。(182p)

 

 私は世界を俯瞰し、観察している。水族館の特殊ガラスのような壁が常に私を守っている。安全な場所で私はただ、眺め続けている。さまざまなことが私には均等で、均質で、そしてある一定の距離を保ち続けている。誰も私の世界を脅かすことはない。こちらが誰かを傷つけることも、やはりない。(203p)

 ずっと私は、少し離れたところから人間を観察するのが好きだった。決して傷つけられることも傷つけることもない適度な距離が、私には心地よかった。(229p)