村田エフェンディ滞土録

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

出版社/著者からの内容紹介
はるかな友たちよ、万のちいさき神々よ、人生の宝石なる時間よ−−
1899年、トルコに留学中の村田君は毎日議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり神様の喧嘩に巻き込まれたり……それは、かけがえのない青春の日々だった。だが……梨木香歩が21世紀に問う、永遠の名作青春文学。

内容(「BOOK」データベースより)
時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり…それは、かけがえのない時間だった。だがある日、村田君に突然の帰還命令が。そして緊迫する政情と続いて起きた第一次世界大戦に友たちの運命は引き裂かれてゆく…爽やかな笑いと真摯な祈りに満ちた、永遠の名作青春文学。


気に入った文章が、この小説には多くて、楽しく読むことができた。
家守綺譚が面白かったので、それとつながりのあると知って、この作品を読もうと思った。
梨木さんのほかの作品も読みたいのだけど、家守、村田と同じ世界観のもので、読んできて、ほかには同じ世界観のものがなさそうだから、次はどれを読もうか迷っています。
十八 日本の展開がすごくて、とても面白かった。
特に気に入った章は、五、六、十八
五 アジの塩焼き
 山賊匪賊に遭いながらも、なんとか、君府にたどり着いた木下の、旅の途中での波斯や土耳古での話。
六 羅馬硝子
同じところに下宿しているオットーの誘いで遺跡発掘現場に連れて行ってもらったときの話。
十八日本
 日本に帰国してからの話。

――神はそもそも最初から存在していたのです。
オットーはいつもの微動だにせぬ頑固さを見せて、
――いや神も生まれ進化し、また変容してゆくのです。その共同体の必要に応じて。そして社会が滅びたとき、その神も共に滅びるのです。神というのは祈る人間あってこその存在、つまり関係性の産物ですから。(32-33p)

人の長い歴史の中で、いつしか忘れ去られたものを、復活させようとする試みに、それではいったい、進化か、退化か。いやいやそういう二者択一の姿勢が、そもそも西洋合理精神の見掛けでわれらを惑わす罠なのかも知れぬ。一神教への流れが、ディクソン夫人の言うように進化の過程のひとつであったなどとは到底思えない。この歴史の流れが、何かを目指しているなどとは、私にはどうしても考えられない。(190p)

思いの集積がものに宿るとすれば、私達の友情もまた、何かにこもり、国境を知らない大地のどこかに、ひそやかに眠っているのだろうか。(230p)