物乞う仏陀

物乞う仏陀 (文春文庫)

物乞う仏陀 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
アジアの路上で物乞う人々と触れ合い、語り合ってみたい―。そんな思いを胸に、著者の物乞いや障害者を訪ねる旅が始まる。カンボジアの地雷障害者やタイの盲目の歌手、ネパールの麻薬売人らと共に暮らし、インドでは幼児を誘拐して物乞いをさせるマフィア組織に潜入する。アジアの最深部に分け入った衝撃のノンフィクション。

一面的に語られるのではないところはいいね。自身や障碍者のSEXについても隠さずに語るところにも好感。
『「俺も障害者だし、このガキどもも障害者だ」
 ラジュはそういって腹を抱えて笑った。
 笑い声があたりに響きわたった。しかし、どこか空虚な声だった。
 きっと酩酊が生み出す幻覚に違いなかった。ひっきりなしに喋っているにもかかわらず、何について誰に向かって話をしているのか分からない。
 ヘロインによってつくられた笑い、路上で接着剤のチューブを加えて這いずり回る少年。何もかもがむなしかった。』(P267-268)凄まじくグロテスクな情景だ。
最後の『第八章 インド』でのマフィアと乞食やレンタチャイルドの話は打ちのめされ、気持ち悪くて、目をそらしたくなる。

 一年に一度、マフィアたちは人さらいのたびにでるという。場所はアグラ周辺だった。
 一人あたり五人前後の赤子をさらってくるため、一年で百人以上にもなるそうだ。
 彼らはチュンナイの中央駅に戻ってくると、赤子をいくつかの関連コロニーへと分ける。昼間は一般の乞食にレンタチャイルドとして貸し出し、夜はここの売春婦達が面倒をみる。
 ただし、レンタチャイルドとしての商品価値は五歳ぐらいまでである。そのため、この年齢になると、マフィアたちは彼らをコロニー内部へ連れて行き、腕や脚を切り落とす。五人の男が力ずくで押さえ込み、鉈のようなもので一気に腕か足を切断する。もしくは焼けたアイロンを顔に押し付けて火傷を負わせるのだ。
 こうした一連の作業がなされたあと、子供たちはマフィアが契約している医師によって治療を受ける切断箇所や回復状況に夜が、おおよそ一ヶ月から三ヶ月間治療に専念させられるそうだ。そして回復するとすぐに、障害を持った幼い乞食として街へ出されるのである。
 だだ、女の子と一部の男の子だけはこうした残虐な行為を免れる。前者は売春の道へ進まされ、後者は麻薬の運び屋やマフィアの下っ端として使われるのだ。(P325-326)

しかも、それを調べていた著者に対しての、マフィアが、儲けが少なく大したことではないといったのにも衝撃を受けた。

「でも、おまえが調べていることは大したことじゃないよ」
「大したことじゃないって?」
「儲けが少なすぎるんだ」
 同じことをタイでも言われたことを思い出した。確かに乞食を管理して設けられる額などたかが知れている。麻薬や強盗の方がよっぽど儲かるだろう。
 しかし、だからといって「たいしたことではない」ということにはならない。
(P328)