新装版 陸奥宗光とその時代

[新装版]陸奥宗光とその時代

[新装版]陸奥宗光とその時代

内容紹介
権力闘争に敗れた父の失脚で城下を追われ、復讐に燃えて才学双全の人となった陸奥宗光
その切れ味の鋭さゆえに、後に「カミソリ大臣」と呼ばれるようになる若き日の陸奥は、
勝海舟坂本龍馬の知遇を得て、勝海舟の海軍操練所、
次いで坂本龍馬の組織する海援隊に入り、坂本龍馬と行動を共にした。
坂本龍馬は「(刀を)二本差さなくても食っていけるのは、俺と陸奥だけだ」と
陸奥を高く評価するが、その扱いづらい個性的な性格のため、生前の陸奥を真に理解し、
才能を発揮させようと親身になったのは、坂本龍馬伊藤博文
西園寺公望の三人しかいなかったと、著者は言う。
並々ならぬ才覚で日清戦争後の三国干渉を乗り切り、
明治維新後の日本の生存と尊厳を守り抜いた男の生涯を通して、近代日本の命運を描く。

すごい読みやすい、歴史系の本でこれほど読みやすいの中々ない。
紀州での陸奥の事跡についてまったく知らなかったので、禄高を20分の1にして廃藩置県まで薩長に警戒されるほどの軍事力をもつ藩に変えていたというのにはビックリした。
『大隈はとくに自らの信念というものがある人ではなく』(P219)『伊藤の場合は無頓着とも言うべき寛容さ』(P222)板垣退助『政治家としての彼の評価は、一致して「お人好し」』(P223)というように、人物について簡潔に表しているのも、あまり歴史人物に対する私的なイメージがないので、その人物をイメージしやすくして読みやすくなるので、よかった。
改進党は英国風立憲政治を、自由党はフランス風共和政治を目指す党というのは誤りで、『自由民権思想化の中には、フランス革命に言及し、ルソーの思想を讃えたりする言説もあったが、いざそれぞれの基本的政策はというと、板垣をはじめとして、戦後の反体制思想化によって「東洋のルソー」などと呼ばれた中江兆民に至るまで、英国風の君民同治思想が理想であり、フランス風の共和思想は主張していない。』(P227)というのは意外だった。そうしたイメージは1960年代の反体制運動が盛んだったころの影響。
憲法発布時、当時の国民や知識層の圧倒的多数の雰囲気からは『挙国一致の祝賀気分』(P238)。たしかに本文にあるように中江兆民の「苦笑した」のイメージもあるから、そんな強く歓迎されたという印象はいままで薄かったなあ。
介入により、本質を破壊された議会主義。現代までつづく政治の腐敗の原因をこの政府による介入に求めている、そういう観点なかったので目からうろこ。
井上馨の条約改正交渉、日本の裁判所に外国人の判事を置くことを規定した、というのは知っていたが、『十二年の期限のある条約であるから、日本の法制の整備が完了するまで十二年間外人の判事を我慢すればよいだけの話であったが、日本のナショナリズムはもうそれを受け付けなかった。』(P292)期限付きだったから、案外交渉成功していたのか。なんとなく、井上馨の交渉は端にも棒にもかからない成果だったという印象あったけど。
高陞号、清国側としてはそのまま増援に成功してもいいし撃沈されても良い、両様の策だった。
『典型的な保守派が「天下の下、新しいものはない」という歴史哲学を持っているのに対して、リベラル派の一つの特徴は、世の中は変革しうると信じている点にある。確かに国内問題は、自分たちで決められるのだからリベラルであり得ようが、国際問題となると、自分の思うままには決められない。むしろ、国際環境の冷厳な事態を直視して、それに対応しなければならない。だから、国政に責任のある人は、たとえ対内的には政治体制や行政の改革を思考するリベラルな考えを持っていても、対外的にはタカ派になるのである。』(P445)政治の思想には無知だが、わかりやすい説明だ。