モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活

内容(「BOOK」データベースより)
大阪のしがない短大助教授・桑潟のもとに、ある童話作家の遺稿が持ち込まれた。出版されるや瞬く間にベストセラーとなるが、関わった編集者たちは次々殺される。遺稿の謎を追う北川アキは「アトランチィスのコイン」と呼ばれる超物質の存在に行き着く…。ミステリをこよなく愛する芥川賞作家渾身の大作。

奥泉さんの小説「鳥類学者のファンタジア」が面白かったので、わりと読み終えてすぐに、この小説を読んだ。
副題に「スタイリッシュな生活」とあるので、もっとスマートな小説かと思ったら、どうも主人公(?)の桑潟幸一がどうにもだらしない、普通に挫折して、上昇意欲がなくなってしまった普通の人という感じで、一躍脚光を浴びる身になってからも特に努力をしようとしないから、あんま好感が持てない。人間くさいし子供っぽい(陰険さとは程遠い)から、嫌いではないんだけどね。
自発的ではないにせよ、嘘で固められてしまい張子の虎といった風体になってしまっているので、そうした嘘を糾弾されないかどうかについて、読んでいて冷や冷やしてしまうので、桑潟パートはどうも楽しめない。
桑潟が『嗚呼、詩は素晴らしい。なにより詩は短い!これがいい。読むにも書くにも手間がないのが素敵だ。』(P342)と言っているシーンで、はじめて文学畑の人だと感じたよ(笑)。個人的には詩は難解で、読むのがしんどいというイメージがすごいあるから、読むのに「手間がない」といえるのはすごい尊敬する。

過去(終戦直前?、桑潟の幻想〈短時間のタイムスリップ?〉)の出来事のパート、ちょっとよくわからんな。「鳥類学者」よりも、筋立てがややこしいなあ。

メギス婦人、トマス・ハッファー文書、ロンギヌス物質、宇宙オルガンなど「鳥類学者」に出てきたワードも結構あり、フォギーはこの小説にも登場している、奥泉さんの小説って全部つながっているのかな。この小説はかなり「鳥類学者のファンタジア」と共通のワードが多い。

北上アキ、諸橋倫敦の元夫婦の素人探偵パートはこの小説で一番面白いなあ。

原泉の手紙で、溝口俊平の男色がふれられて、『感動するべき、価値のある男色なのです。』(P508)といっているが、さすがにショタはなあ(苦笑)

殿山まさる、1シーンしか(?)でていないが、どうも他の小説の登場人物っぽいかかれ方だ。
2人の語り手たち、最後の方で対話だったりお互いの情報を明かすようなシーンがあるかと思ったら、最後までなくてちょっと笑った。