牛 築路

牛 築路 (岩波現代文庫)

牛 築路 (岩波現代文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
中国の寒村での庶民の生と死を凝視し、暴力という秘儀体験と生命のはかなさを饒舌な文体で濃密に描く。荒涼たる大地ではいつくばうように生きる人々。自らが何者かを知らず、自らの居場所を知らず、自らの行く手を知らない人々にとっての幻と希望とは何か。現代中国文学の旗手が文革期農村を描いた小説二篇は、「マジックリアリズム」と呼ばれる著者の作品世界を知る上で恰好な作品である。本邦初訳。

そんなに積んでいたという印象がなかったんだけど、なんだかんだで一年近くも積んでいたのか。

「牛」
冒頭の「あのときぼくは。〜だった」の三連発から始まる文章はすごいな。冒頭の文章だけで、惹きつけられる(ただ単純にいい文章だと感じる)ことは個人的にはめったにない(覚えている範囲では「あまりにも騒がしい孤独」くらい)が、これは個人的に稀にしか体験し得ない事例の1つだ。内容はキン○マの話なんだけどね(笑)
老社と羅漢の仕事の押し付け合いというか、相手が寝ている隙に自分も寝るという、目的の本願を果たす気のない行為には笑う。老社、どう形容していいかずっとどうだろうと思っていたが、訳者あとがきに「ひがみっぽい言動」とあったので、それでようやく少しすっきり。というか、僕はキャラクターの特徴的な要素ひとつを言い表す言葉が全然思いつかないので、そういうところ(キャラクターを上手く掴めていないということ、あるいは自身の語彙の貧弱さ)を改めて自覚させられると、ちょっとへこむわ。

「築路」
孫巴が犬を釣る話は大変緊張感があって印象的。あとは、老劉の昔の話とかは結構面白いし、王隊長があっという間に逮捕されるのも笑える。けど、終わりの方は破滅のエピソードが多くてどうも好みではないなあ。