f植物園の巣穴

f植物園の巣穴 (朝日文庫)

f植物園の巣穴 (朝日文庫)

内容紹介
歯痛に悩む植物園の園丁がある日、巣穴に落ちると、そこは異界だった。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、愛嬌のあるカエル小僧、漢籍を教える儒者、そしてアイルランドの治水神と大気都比売神……。人と動物が楽しく語りあい、植物が繁茂し、過去と現在が入り交じった世界で、私はゆっくり記憶を掘り起こしてゆく。怪しくものびやかな21世紀の異界譚。

 こうした、いかにも文学と言った文章を読むのは実に久々だな。最近は、わかんないもの読んでも仕方ないと、読みやすいものしか読んでいないからなあ。しかし、読みやすいものばかりでも語彙とか増えないから、昔の小説とかも読んだほうがいいのかしら。でも、昔の小説で読む気がそそられるようものがあまりないから、読もうと思っても困るが。まあ、青空文庫で太宰あたりでも読もうかな(そういや、太宰の小説って一本丸々読んだこと一度もないし)。読み始めは時代背景がわからないもので、ちょっと混乱した。いや、読み終えた後も、小物とか固有名詞とかで、具体的な年代を察することができないから、明治・大正時代あたりだろうなあ(「傷痍軍人」という言葉があるから、少なくとも日清の後かな?)、ということしかわからないけどね。
 昔の文学っぽい文章に、幻想小説のような出来事の描写で、どれが現実だかわからないからちょっと読みづらい。植物についての描写も多々あるが、植物詳しくないからなおさら読み進めるのに苦慮した。ところどころミステリっぽくもあり、語り手の認識の(子どもの頃の女中の千代についてと、妻についての)錯誤があかされるが、その間に事件がなにかあったらミステリとしても読めるくらい大分叙述ミステリらしさがあるな(あまりミステリ詳しくないので、全然違うといわれるかもしれないが、「鏡の中は日曜日」での水城の旦那視点のような感じ)。
 マクニール先生が帰国する前に、「カリアッハ・ベーラ」(妖精)のことを尋ねて、驚かれて、熱心に話された。というエピソードはなんかいいなあ、好きだなあ。
 自身の錯誤(迷妄)が解かれて、妻と現実を直視して、妻との和解を果たしたという終わり方はすごいいいなあ。