渡辺崋山


渡辺崋山

渡辺崋山

内容(「BOOK」データベースより)
田原藩士として武士の本分を堅守しつつ、西洋文明の正確な理解に努め、瞠目すべき写実を独創した、徳川後期屈指の画家。不遇な幼少期から非業の自刃に至るまで、明治維新という一大革命の前夜、その文化状況の危機を象徴するかのような崋山の生涯。宿命の男の肖像を、等身大に活写する。


 キーンさんの歴史著作は中身がしっかりとした内容であるのに、恐ろしく読みやすいので、読んでいて心地いい。
 巻頭に渡辺火山の描いた絵がカラーで収録されている、こうやってある程度の量をまとめて見たのはじめてだけど案外画風に幅があるのね、素人目から見ても、まあお金の為に量を書かなければならなかったからいろんな意味でばらつきがあるのは仕方ないのかな。今まで見たことなかったもので、個人的に気に入ったのは「竹中元真像」と「坪内老大人像稿本」(抜け目なさそうな目をしてる)、そして「市河米庵稿本」、それと153ページにモノクロでの収録だが「岩本幸像」はすごいリアル。どれも写実的な絵で江戸時代にこんな風に書けた人がいたのかとちょっと感動。今まで知っていた「鷹見泉石像」は小奇麗すぎる印象だったし、「笑顔武士像稿」(これもカラーでははじめてみた)は鷹見と同一人物という説を知った時に見たが、全然雰囲気違うと感じてしまって、書く絵ごとに完成度のブレがある人物なのかと思い、どうも素直に感動できるような気分でなかったので。
 椿椿山が崋山の愛弟子だということをなぜかよく忘れてしまっていたが、たぶんもう忘れない、といいなあw。
 松崎慊堂を描いた絵、「全身像の厳粛な趣」とあるが、パッと見しょぼくれたおっさんにしか見えなかった(笑)。
 崋山が鈴木春山に宛てた手紙の中で、『これまで培ってきた画家としての能力の可能性が、重臣として新しい務めによって奪われることになるのではないかという絶望に駆られているように見える。また、日本画が本質を極める最後の望みが自分であることを、かなり臆面もなく述べている。』(P112)やっぱり自分の絵に対しては相当な自身があるのか。個人的な崋山のイメージは「風雲児たち」の絵から、うらぶれた中年という印象だったので、強い自信を持っていたことは絵の実力的に当然のことなのに、そこはかとない意外感がw。
 ビュルゲル、遊女ツネ(シーボルトの日本妻の姉)との間に一子をもうける。姉妹揃って外国人の妻、妾というのは、ちょっとびっくり。いや姉妹が揃って遊女をやっていることにも親は何してんだよという気分にもなるが。
 崋山の弟子、椿椿山以外に西洋画の技法を受け継いだものはいないし、椿椿山は自身の弟子にもその技法は伝えられなかった(写真術の輸入により、肖像画の需要がなくなったため)、というのは、あまりにも惜しいなあ、こういう絵好きなのに。