江神二郎の洞察

江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)

江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)

内容(「BOOK」データベースより)
その人の落とした『虚無への供物』が、英都大学推理小説研究会(EMC)入部のきっかけだった―。大学に入学した一九八八年四月、アリスは、江神二郎との偶然の出会いからEMCに入部する。江神、望月、織田とおなじみの面々が遭遇した奇妙な出来事の数々。望月の下宿でのノート盗難事件を描く「瑠璃荘事件」をはじめ、アリスと江神の大晦日の一夜を活写する「除夜を歩く」など、全九編収録。昭和から平成への転換期を背景に、アリスの入学からマリアの入部までの一年を瑞々しく描いた、ファン必携のシリーズ初短編集。

 学生アリスシリーズの短編集、正直3年程度で文庫化になることがわかっている本を単行本で買うことは悩むが、まあ、以前からそうした短編が収録されているオムニバスの文庫を買おうかなと思ったりもしたので結局購入。
 直接、彼らが殺人事件の渦中にいる話もないし、日常の謎テイストの話で、日常の謎もののミステリーは大好きなので面白かった、それに最近余り日常ミステリーは読めてなかったからより一層。あと、織田と望月間の軽口は読んでいて面白い、特に『「信じる……」/「モチ。お前、ミステリに毒されてそういう概念は忘れてたやろ」』(P53)や織田がヘルメットに自分はミステリファンだとのアピールのためにクエスチョンマークを描いたのを見た望月の『そんなん被ってたら『僕は誰で、どこに向っているんでしょう?』って自問自答しているみたいやないか。』(P72)というのがお気に入り。
 『名前と言うのは覚えやすいことが第一の条件だと言う父のために、小さい頃はずいぶんと苦労したものだ。癖のある名前は心の重荷になる、と察してもらいたかった。』(P9)後半の文は最近のキラキラネームへ軽く毒吐いているのかな?とちょっと思ったが、初出2000年かぁ、それなら違うのかな。覚えやすさは、アリスなら覚えやすく、言いやすくても、最近の変な名前は覚えにくく、言いにくいそうなのも多いからなあ。
 「ハードロック・ラバーズ・オンリー」掌編で、微妙に歯切れの悪い終わりだと思ったが、まあこの長さでそうした真相がわかったらご都合的すぎるからな、と思っていたら、「除夜を歩く」において、その推理が正しかったことを確認できたのは良かった。
 『下山事件で争点となったように、死後轢断か否かの判定が困難という微妙なケースも時にはあるという。』(P87-8)そういうケースもあるんだ、今まで、すっぱりその前後で明確に違って、間違えることなんてないものかと思っていたよ(そんな認識だったから、いままで下山事件陰謀論的に考えていたw)、だからそういった論争が生まれるのか。
 鉄道ファンがしている喫茶店、弁慶の名前の由来の、小ネタ(明治時代にアメリカから輸入された北海道の蒸気機関車「弁慶号」から)というのを望月、織田、アリスの少なくとも3人が知っているって、そんな常識的な問題なのか?と思ってちょっと困惑してしまった、僕は全く鉄道、電車に興味がないので知らなかった。
 「やけた線路の上の死体」江神さんが推理によって事件を解決したときの、望月母の『立派な先輩に恵まれて周平は幸せです。お手柄でしたなあ』(P116)というのは、そうした推理が当たったことをもって「立派」というのは、微妙にずれているようなそうでないような。
 「四分間では短すぎる」こうした皆でわいわいと推理しているのをほほえましく思っていたが、オチにおいて、ニュースで見た実際に起きた事件と辻褄合わせようという遊びだったとわかって、少し残念。アリスが出した題で、皆が喜んで仮説をだしているのだと思ってみてて心が和んでいたのに……。こうした会話の中で「点と線」のネタバレがあるが、こうしたミステリーのトリックをネタバレ有りで、あるていどまとまっているものが読みたいのだが、何かないものか、ミステリーの評論集とかは案外そういうの扱われてたりするのかな?と、そうしたものは読んだことないのだけど、ふとそう思ったり。
 「開かずの間の怪」最後の一つだけ本物っぽいのがあるというのは、ゾッとして普通に怖いわ。他の作品ではそうした超常的なものがない分だけ、尚更そう感じる。
 「蕩尽に関する一考察」何も果たせずに、資産を無駄に浪費しただけに終わった古書店の店主が哀れすぎる、今後の彼は大丈夫なのかな?と人事だがひどく不安に駆られる。