丸田町ルヴォワール

丸太町ルヴォワール (講談社文庫)

丸太町ルヴォワール (講談社文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
祖父殺しの嫌疑をかけられた御曹司、城坂論語。彼は事件当日、屋敷にルージュと名乗る謎の女がいたと証言するが、その痕跡はすべて消え失せていた。そして開かれたのが古より京都で行われてきた私的裁判、双龍会。艶やかな衣装と滑らかな答弁が、論語の真の目的と彼女の正体を徐々に浮かび上がらせていく。「ミステリが読みたい!」新人賞国内部門第2位、「このミステリーがすごい!」国内部門第11位。

 講談社BOXで出たときから気になってはいたけど、基本的に小説は文庫化してから読むので、しばらくは読む機会なさそうだなと思っていたから(というか、講談社BOXから出たら文庫化普通より遅いと思っていた、実体は知らないがなんとなくのイメージで)、思っていたよりも文庫化が早かったので驚いた。
 第一章、ですます調で少し面食らった。まあ、一章だけだったからよかったけど。
 「シュートな挑戦」という言葉があってなんだかさっぱりわからなかったが、かるくググってみたら、「アングル、ブックを無視した本気の仕掛けのことを指すプロレス用語。ガチンコを参照。」(シュート - Wikipedia)という意味でいいのかね?この文のシュートは。
 『はは、ぼくが真面目に勉強したら、医学が終わります』(P33)意味がまったくわからんが、ものすごく自信を持っているということだけはわかったw。
 携帯電話でペースメーカーを狂わす計画って、よっぽど近く(「影響を及ぼす範囲は約二十二センチ」(P250))でなくちゃならんのじゃ、そこらへんはまだ子どもということか、あるいは目が見えないからふわふわした知識で史料を参照できない状態で計画したからなのか、まあ、どちらにせよ本気じゃなくて、思考遊戯的な、どうやったら実行できるかを考えて楽しんでいるだけのものだとは思うけど。
 2章、なんとなくハードボイルドっぽい空気だなw、前とのギャップもあるがそう感じた。
 双龍会、本気で何が目的でやっているのかわからなくなってきたな。単純に娯楽目的だけではないだろう(今回のように、真剣(訴えられている奴を除いてw)なものもあるようだし)が、説明を聞いているとそのようにしか思えないのだが。
 3章は、青龍師で立つ流が語り手の章だが、正直あまりにも頼りない(ちょっと真剣味が微妙にたりない)ので、負けフラグがびんびんしていて嫌だなあ、と思っていたら、案の定……。
 「名状しがたい良い匂い」というのでちょっと笑った。
 「おそらく自然死だが、ペースメーカーの動作不良による死という可能性も否定できない」と揚げ足を取りに来ているなあ、というか、この程度で罪になるなら、冤罪がしこたまでるねぇ、現実の裁判だったら間違いなく有罪にできないんだから(しかも何年も前のもの、叔父によほど政治力があるのでないかぎり、公訴されることはないだろうし)、叔父がどうこういおうが、無視してればよかったんじゃないという気がすごいするが。と、ここまで書いて気がついたが、実際に訴えるにしても民事での予定だったのかな?それでもそんな根拠薄弱なもので裁判をして、それが悪評になるぞって脅そうというなら、正直ネタは何でもいいんじゃ、という気もするし、それとも、他のことなら一笑に付すが子どもが疑われるというのが耐え難いから、今回のもので弟の要求を受けたのかな?ただ、それだと、息子の進路を制限する(のか制限を解いたのかわからないがw)ようなものを受け入れるかね。
 というか、真相わからなかったら、論語があっさりと医学部辞めるとはとうてい思えんのだが、そこで論語がごねれば、無理に辞めさせることも悪評になるから父からそういうこともやらんだろうし、正直、負けたからといってあっさり履行されるようには思えないから、家に悪評が、と脅すならくだらないことや細かいことでいくつも訴訟する、とか泥仕合をすれぞ、と脅せば済む気もするし。
 黄龍側、携帯を手元から離した責任とか、難癖以外何ものでもないな。そもそも自然死である確率がかなり強い状況で、このような弁舌(机上の空論)のみで、人を犯人にしようというのには、嫌悪感を覚えてしまい、読むのが辛かった。そういった事件にできないような事案をミステリの俎上にのせるなら、少なくとも容疑を掛けられている人が見世物にならないような状態でして欲しい。事件にできないようなものを扱っているから、当然黄龍側には、相手に罪を負わせるのに苦しい言い分(難癖)になってしまうからな。
 いや、この小説の弁論で本当に扱われているのは幻の女が実際いたかどうかということで、論語に罪があるかはどうかや、双龍会というのは、それを2手に分かれて本気で議論させるための舞台装置だということわかっているけど、どうしても、黄龍側の(エンターテイメント要素あるから仕方ないという設定なのだろうが、とても攻撃的な(才を人に罪を押し付けるために使っている))弁論についてはどうしても不愉快に感じてしまう。
 偽証拠を作ったら、あっさりと黄龍側からルージュが出てくるとは思わなかったので、なんか脱力。しかも青龍側からもルージュが出したがw。しかしお互い、偽証と盗聴、そして厚顔無恥にもルージュを否定する弁論をしてきたのに、自らをルージュというのもでてくるし、もうgdgd泥仕合にも程があるわ。しかし、黄龍側のルージュが途中退出したあと、別のところでアリバイあったと主張しているが、眠ったのでそっと退出したといっているが、それが通るなら、そっと退出するのにも気がつかないほど眠っていた人間がわずかな時間で起きだして、目が見えない人が寝起きで殺人を犯したとかいう阿呆な推定には説得力が欠けすぎているように思われるが。
 終章、「龍樹の暗部」云々、ああ、ファンタジー。もう世界観がよくわからんな。
 解説に、『要はこの作者は意図的に、本格ミステリーの面白さは真相に相当する推理にあるのではなく、仮定だろうが真相だろうが”推理”そのものにある、と挑発しているのだ。だからあえて真相を矮小化して見せた。本格ミステリーに於ける”探偵”は真相ではなく、面白い推理を騙るにこそふさわしい。重要なのは探偵であり、探偵役は何ら本質的な要素ではない、と。』(P481)そういう意図があったんだ。そう説明されると、なんか良さそうに思えるね。そういうジャンルという枠内で新しい地平を切り開こうとする(あるいは切り開いた、とされる)実験作というのは、説明を聞くと面白そうに見えて、読みたくなる。けど、個人的には黄龍側の弁舌が不愉快でならず、どうにも合わなかった。だがもし、実際の弁護士もこんなものだといわれても(実際どうなのかは知らんが)、はあ、そうですか、としかいいようがないが。