推定無罪 新装版 上

新装版 推定無罪 (上) (文春文庫)

新装版 推定無罪 (上) (文春文庫)


 電車の待ち時間などでちまちま読み進めていたので、読了。名作らしいし、ちょうど復刊したのだから、とつい買っちゃったが、よく考えたら一度主人公が逮捕されるようなので、逮捕されるまでの疑惑の目とか、あるいは逮捕された後のことについて、暗い創造をしてしまい、読むのが中々にしんどかった。まあ、全部読んでから改めて考えてみたら、読むの辛かったのは、概ね自分の想像のせいだったという(笑)。
 妻には『バーバラ、ぼくは主席検事補だし、レイモンドは占拠に命を賭けている。ほかのだれが捜査すりゃいいんだ?』(P73)といって自分がやるのが当然のことのように語っているが、『レイモンドがほとんど一日じゅう選挙運動で外に出ているので、ふつうなら地方検事がやる仕事の大半をわたしがやらなければならない。』(P82)とあるように自分自身も平時よりもずっと忙しいんじゃないか。まあ、それが見透かされているから、元愛人が殺害された事件というのもあり、よりその事件に個人的に執着していると思われていると思われて(実際その面もあるようだし)妻が不機嫌になっているのか。しかし、こういう誤魔化しっていかにも夫婦っぽいような描写だな、と感じるよ。
 『最近この都市では、殺人事件の半数が暴力団関係』(P118)ひょっとしなくても、ものすごく治安が悪くないかい?いや、抗争とかならまだしも(まだしも?)、暴力団が普通の人を殺しているケースが多いなら、ぞっとするほど危険な地域だな。まあ、多少誇張していっているという可能性もあるが。まあ、もしジョークだとしても、アメリカについて詳しくないので読み取れないからな。
 『一つの言葉がわたしを直撃する。機会。機会に恵まれなければ無罪になれないのだ。』(P274)この言葉で、冤罪でも無罪を勝ち取るということは並大抵のことではできないという事実を強く意識させられる。
 『ケンプが目玉をぐるりとまわす。優秀な弁護士だが、いまでもひどくアイヴィリーグ的で、自分が相手を馬鹿だと思っていることを、そうやって本人に知らせるのだ。』(P367)「目玉をぐるりと〜」だけだとどういうことを意味しているのか解らなかったが、その後の説明で、ああ、胡乱気に相手の全身を見回していることを示しているのか!とようやく気がついた。
 マーティ、来なくてもよいのに来たことや、サビッチ(語り手)とキャロリン(母)との関係を話さなかったことを、サビッチ自身に話したことから、ひょっとしてこいつが犯人なのでは、と勘ぐり、そう思うと、気弱そうに見せて、実はそういう意味で挑発にかかっているものだと疑ってしまう。そう考えたら、長年会わなかった母に性的魅力を感じて、強姦して殺害(あるいは今までもそういう関係を持っていたが、なんらかの諍いによって殺した)したと考えると、中々に反道徳的でかつ劇的でもあるな、と感じた。