99%対1% アメリカ格差ウォーズ

99%対1% アメリカ格差ウォーズ

99%対1% アメリカ格差ウォーズ

内容(「BOOK」データベースより)
「貧乏人に医療保険を与える奴は殺せ!」巨大資本に操られるインチキ政治運動、デマだらけの中傷CMをぶつけ合う選挙戦、暴走する過激メディアまで、日本人が知らない「アメリカの内戦」を徹底レポート。

 町山さんの著作読むのこれで2冊目。ちょうど図書館で新しく入っているのを見て早速読了した。前に読んだ本と同じくこの本もコラム集。
 南北戦争の頃は、奴隷制度の撤廃を求めたリンカーン大統領が共和党で、南部連合政府が民主党だった。人種隔離政策の撤廃により、南部の白人たちの民主党離れが始まり、それを取り込んだのが共和党、それ以後徐々に現在のような政党へ。
 古典的自由主義、「見えざる手」に象徴されるように市場は放任しておけば、多数の人にとって良いものは熟れよい企業は大きくなり、雇用を創出し、良い商品で世の中は良くなると考える、大雑把に言うとそんな感じと書いてあるが、それだけ読むと都合よく考えすぎだと、つっこみたくなるような考え方だな。
 新自由主義は、古典的自由主義の理想を実現させようと、福祉削減、規制撤廃、市場と競争の自由化の拡大、というニュー・ディール政策(社会自由主義)と逆方向の施策。
 大統領選でブッシュ父を勝たせた(第一級殺人の囚人に外泊を与えたというウソの事実で、相手を誹謗するCMの効果もあって)、ロジャー・アイルズはブッシュ父を勝たせた年に『世論誘導のテクニックをまとめた本『君はメッセージだ/コミュニケーション名人の秘密』を出版している』(P30)というのは、中々面の皮が厚いようだなあ、選挙が終わった年にそうした世論を導くテクニックを使って動かしていたと言うような本を出したというのも含めて。
 ティーパーティは純粋な草の根運動ではなく、その後ろには、オバマの収入の多い企業・市民への増税に反対する大企業や富裕層が(主たる人間として〈つーか事実上の黒幕のようだが〉、コーク兄弟が)いる。大資本による、予備選や大統領選での中傷CM機関「PAC」が合憲と判決を出してから、大企業が多く資金を出すことによって「スーパーPAC」にすることが可能となり、更にキャンペーンをうつことが可能になった、今回の大統領選ではロムニー陣営が少額の個人献金含めて両者10億ドル以上の金銭を集めた、それは、すごいお金だと思うと同時にそれのかなりの部分が中傷合戦で消えていくのだと思うとなんだか空しくなる。
 マクリスタル将軍、ヘイスティングという記者が酔っているマクリスタル将軍から聞いた言葉を(特に書く許可を得ずに)書いた記事で失脚。この将軍は、どうもアフガンで、タリバン(ゲリラ)を匿ったり、身を投じたりしないように、一般人の心と意識を獲得することが重要と、ベトナム戦争の教訓を生かそうとしていた人で、正直酔って一説ぶった以外に瑕疵のない人間が、マナーを知らん記者のせいで首にされるのはかわいそうだ。
 オバマへの不満から、現状をもたらした、金持ちへの減税や福祉の削減といった政策をする、新自由主義の復活をもくろむティーパーティー運動が支持を集めるって、確かになんかおかしいね、政治への意識が高いようなイメージがあるアメリカでもこうした正直正気の沙汰とは思えないようなことが大きな影響を持っているのは、民主主義の怖さだよな。まあ、日本も、遅れてきた新自由主義である「維新の会」がやたらと支持をのばしているし他所の国のことをいえないけど。
 ジェームズ・オキーフ、「どっきりカメラ」(秘密裏にカメラを回して)で相手の素材を取って、それを切り貼りして、その取材相手を陥れるような映像に編集してYOUTUBEにアップして、その団体への批判が高まって政府からの助成金が打ち切りになり、創業40年の福祉団体を潰した、というのは何を意図しているのかさっぱり分からなかったが、その後も色々やらかしているところをみると単に愉快犯、目立ちたがり屋なのかなあ。
 アイン・ランド、たまに名前を聞く小説家で、やたら邦訳の本の値段が高いことは知っていたが、リバタリアンか。「肩をすくめるアトラス」では、格差のない福祉国家になったアメリカが舞台で、知的エリート(と自認する者)たちが、自分たちのような優れた者たちが、その恩恵を受けて暮らしている「寄生虫」共に奉仕しなければならんような社会は気に食わん、だからこの社会をボイコットして我々の必要性を思い知らせてやる、というようなことを邦訳で65ページも演説する小説ということで、しかもランドの英雄がサイコ・パス的であるということで、今までアメリカの一部ですごい人気があると聞いて興味を少し持っていたが一気に興味がなくなったわ(笑)。だって、きっと読んでも、僕では9割方(以上)、つまんないと思うからね。
 共和党の支持者の25%以上がモルモン教徒って、全米での比率は知らないが二大政党の片方の支持者の四分の一ってことは、アメリカでは結構メジャーな宗教だったのか!いやあ、正直プロテスタントとかカトリック、あるいは正教徒だといわれればふうん、と思うだけだけど、それ以外の四分五裂したような宗派である程度メジャーなのが、何かあるのか、あるならそれが何なのかすらわからんよ。しかし、モルモン教といい、ティーパーティーといい、色物多いね(いやティーパーティーと一緒にしては失礼か?)。
 現在のアメリカの『最高裁判事は二極化しすぎて、イデオロギーから離れた冷徹な法的判断ができない。』(P289)ということだが現在の最高裁は政治に関するところが(?)なのか全般的なのか知らんが、2極化しているというのは人物が幾人か入れ替わればすぐに判例が変わりそうで、判例法の国なのに大丈夫なのかなと他人事ながら少し心配に。