人類は衰退しました 8

人類は衰退しました (8) (ガガガ文庫)

人類は衰退しました (8) (ガガガ文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は“妖精さん”のものだったりします。そんな妖精さんと人間との間を取り持つのが、国際公務員の“調停官”であるわたしのお仕事。壊滅状態となったクスノキの里の人口は激減しました。そんななか、わたしの祖父は、好事家の貴族に誘われて旅行に出かけてしまいます。行き先は―月。念のため、丸まり状態の妖精さんをひとりお供につけたものの、心配で不眠症になってしまったわたし。不思議な夢を見ることに…。


 前回クスノキの里は壊滅するような被害にあったので、さすがにギャグマンガのように1つのエピソードが終わったら次回には戻っているという風にはいかないか。国連や近隣の村々から支援物資が届いて、衣食住が働かずともそこそこ満たされているから、里の人々の勤労意欲がわかなくなっているということには、まあ、窮乏していないようでなによりだよ(微苦笑)。ライトノベルなのに、復興問題のような社会的な問題もコメディにして扱うのは、このシリーズならではだな。
 冒頭何事かと思えば、チャリティーの素人芝居か。その劇の中の妖精王の台詞が『もー。おくすりぬりぬりするの、あかいふくきたほうって、ゆーたのに』(P12)というのは、シェイクスピアの「夏の夜の夢」原作だが、「わたし」が脚本を起こしただけあって劇の妖精の口調が現実の妖精風に改変されているが、演じている人たちや観劇している人たちは、妖精はそんなしゃべり方をするという認識があるのかがちょっと気になるなあ。
 『まって。軽々しく謝罪すると問題を公式に認めたことになってしまい、裁判で不利になります。ここは愛想笑いで受け流して、穏便に出方をうかがいましょう』(P69)というような、普段と変わらぬ「わたし」のちょっとしさ黒さを見ると、「人退」シリーズを読んでいるなという実感を強く抱き、なんとなく安心する。
 『クスノキは栄えているほうですが、人口は数万人もいるわけじゃあありません』(P79)というのは、一万人ちょっとくらいということなのか、それとも数千人程度という規模なのかどっちだろ。どちらにせよ思ったより、結構人数多いな、中世なら都市クラスだ。
 「わたし」がケーキ教室をする時に、拡張現実のアプリを作ってそれを使って、料理をするのにミニゲームのように、goodやstylishと褒める演出がなされるというのは面白い。材料をはじめから「わたし」がそろえてあるのに、拡張現実の演出で褒められるということを生徒がつっこんでいるくだりが、不意にツボった(笑)。Yも褒めているし、助手さんもはまっているので、なかなか「わたし」のミニゲームのようなアプリを作るのセンスがいいのだな。
 難産で死亡したのが集計されないため逆子が滅多にない稀有な事例のようになっており、「わたし」たちが声をかけた多くの産科医ですら逆子の経験がなく、誰も逆子を取り上げられる技量がないということには、人類が衰退しているということをまざまざと実感させられるよ。
 プチモニ、妖精さんが静電気で充電をしているため長く活動していられるが、彼女は妖精が見えないので、自然に充電される理由がさっぱりとわからなくとも疑問を特に抱かずに、経験の蓄積が良かったのではないか、と考えるくらいの柔軟さと楽天性は実に人間らしい、機械らしからぬ思考で笑える。
 さまざまな問題が起こっているのに、どれも問題解決の目処がたたず「わたし」は不眠に陥り、妖精さん睡眠薬を頼むが、それが『えーみんならば、こさじさんばい!』(P150-1)という中々やばい代物。しかし、それでも使おうとするのは「わたし」がずぶといなのか、それでも使うほど参っているのかどっちだろうか。
 そして、その薬を使って眠った人たちは夢の中で互いに会うことができ、その夢の中で、好きに美味しいものを食べたり飲んだりなどかなり自由に行動できるので、その薬が里中に蔓延して、その薬を手に入れるために死んだ魚のような目で列に並んでいるさまをみると、もろドラッグじゃないかと笑えるのと同時に妖精さんが作ったものでも、こうした危ないものもあるんだということを改めて実感する。そして、今回の妖精さんの道具によるトラブルが、夢の中の世界に文字通り夢中になっているというギャグでもある、ということにしばらく読んでからようやく気づいた(笑)。また、Yが作った「オールウェイ」というコンテンツでは、助手さんが主人公の外見のモデルとなっているのに、夢の中の世界ではファンたちの多数決によって18禁展開になっているということは助手さん、なんというかご愁傷様です(笑)。
 しかし、夢の中から人々を追い出すために射殺するというのは過激だ。VRMMOを題材とした小説とかでそういうところで殺すと、現実でも実行する場合のハードルが低くなると言う問題が描かれていたりするけど、とほんのわずかに心配になったが、まあ、この小説ではまずそんなことにはならないだろうから素直に面白いと思うのが吉か。
 ラストの引きが月旅行に行ったシャトルとの連絡が途絶えて、通信回復を諦めたという手紙で終わるから、次回は「祖父」を助けに宇宙へ行く回になるのか、楽しみだな。