エデン

エデン (新潮文庫)

エデン (新潮文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
あれから三年―。白石誓は唯一の日本人選手として世界最高峰の舞台、ツール・ド・フランスに挑む。しかし、スポンサー獲得をめぐる駆け引きで監督と対立。競合チームの若きエースにまつわる黒い噂には動揺を隠せない。そして、友情が新たな惨劇を招く…。目指すゴールは「楽園」なのか?前作『サクリファイス』を上回る興奮と感動、熱い想いが疾走する3000kmの人間ドラマ。


 2年契約で入って半年経ったところでチームつぶれる話がでてきて、それを知った白石の最初の感想が油断していた、というもので自分の油断への反省が嘆きよりも先にくるというのは、実力さえあれば、今回のように急にチームがつぶれてしまうという話になっても、困らないというようなシビアなプロの世界で身に身を置いているだけあって自分に厳しいな。
 『去年はタイムトライアルのコースにアップダウンが多く』(P29)とあるのを見て、こういう自転車レースでは、タイムトライアルのコースが毎回違うということをはじめて知った。今までは、なんとなく毎年同じコースをタイムトライアルにしているのかと思っていたよ。
 ヨーロッパでは自転車を移動手段と捉えている人はほとんどおらず、スポーツとしての位置しかないので『一万円台で買えるような安価な自転車などない』(P52)という扱いなのは意外だった。たしかヨーロッパには車道・歩道と自転車用の道路があった気がするけど、そこにロード(って言うんだっけ?)用の自転車ばかりが走っている中で、ママチャリとかで走るのはよほど他人を気にしない性格ではない限り難しそうだから、そういう風土になってしまったのなら、これから移動手段としての自転車の普及する可能性は薄そうだ。
 ニコラ、明るさと人懐っこさがあるから、自分の中ではなんとなく「ベイビーステップ」という漫画の井出のようなイメージで読んでいた。しかし『でもドニには白の方が似合うから』(P161)という台詞には腹黒さも感じたけど、最後まで読むとドニのことは嫌いではなかったようだけど、色々複雑な思いがあったようだね。
 監督も本心ではミッコに勝って欲しかったのに、チームを存続させるという一縷の希望のために、4年間を共にしてきた信頼関係のあったエースであるミッコを傷つけ、お互いの信頼関係を修復不可能なものにしてしまった。白石が慨嘆しているように悪意がないだけに『どうして、世界はこんなにもちぐはぐなのだろう』(P115)と読んでいるこちらもそう言いたくなるくらい悲しいすれ違いだ。
 『無線機器のおかげで、逃げ集団を捕まえることは簡単になった』(P141)という文章を見て、よく考えれば当然のことなのだが、自転車レースに無線がなかった時代もあるということに気づいた。正直なところ現代の自転車レースですらよくわかっていないが、昔の自転車レースを扱ったノンフィクションなり小説なりを読んだことがないから、現代的な道具立てがない時代のレースがどのようなものなのか想像が付かないな。